「では、この事件も速く解決しないといけませんね」と微笑んで諸伏警部は歩き出した。
私も黙って彼の後ろをついて行く。
なんとか躱した私はチラリと諸伏警部の顔を見た。どうやら、まだ納得はしてなさそうな顔だ。
もちろん会ったことがないというのは真っ赤な嘘である。
とはいえ、彼…諸伏警部と最後に顔を合わせたのは、私が小学6年生の頃だ。
4年の間に顔立ちも多少は変わるし、若干の声変わりもしている。
なにより、警察との基本的なやり取りは海斗兄さんがやっていたし、私は外で呪霊が暴れないように見守っていただけだ。
当時は海斗さんと任務に行くときは名前だけは変えていたし、苗字も”あなたの名字”で変わっていなかった。
だから彼がその時の少女と私が、同一人物だと気づくにはそれなりの時間を用するだろう。
まぁ彼に私の本当の姿がバレたとて、困るのは年齢詐称で警察をやっている事実を問われるぐらいだろう。
だって私、本当は16歳なんだもの。
なんで10歳もサバ読んだんだよって、いつかは誰かにツッコまれそう。
そんなことを考えたらあっという間に会議室についていた。
4人で明日の動向を確認して、私はその内容をメモに取る。
そこからはあっという間で、お互いに解散、明日の朝にエントランスで集合、ということになった。
翌日、ホテルで解散した悠仁たちとはインカムで連絡を取り合うことになった。
インカムと言ってももちろん普通のものではなくて、術式がかかっている。
ある一定以上の呪力がないと見えないから、一緒に捜査しているときに彼らに見えることはない。
インカムを付けないと、こちら側の情報を悠仁たちに迅速に伝えることはできないし、今日は彼らが私達の動きを離れたところで見守る形になるから、何か合っても彼らがすぐ駆けつける。
私一人じゃあ3人をかすり傷すらない無傷で守れる自信がない。
そもそもそんな考えが思いつかない。
五条先生じゃないんだもの、壁は作れても一切攻撃を通さないなんて至難の業。
この得体のしれない術式を使いこなすのに、どれだけ時間を費やしたか。
…いや、使いこなしきれていはいないか。
これがどんな類の術式なのか、知る術はわずか。
きっと、もう血の匂いがなくなってしまったあの家に行けば、文献くらいは残っているだろうか。
それとも、もう先生に回収されてしまっているかもしれない。
そう呟いて、私は長野県庁へと足を踏み入れた。
…本当に運がないと思う。
でもそれ以上に、自分の詰めの甘さに悔しくなった。
場所は通報を受けてやってきた百貨店。
現場は1階のホール。
私が伝えた情報で、心結がすぐさま帳を下ろして悠仁と猪野さんが2階の通路から1階を見下ろしていた。
すぐ駆けつけることができたから、犯人はまだこの場に居るだろうと帳を下ろして油断していたのが、今回の私の致命的なミスだった。
なんとか気づけたのは、自分の近くに少し多めの呪力を持った、そんな気配を感じたから。
人の影はないのに、胸騒ぎがする。
慌てて現場検証をしている上原刑事と諸伏警部のところへと向かった時には、一番近い彼を狙っている独特の形をした刃物があった。
声をかける時間もなくて、考え込んでいる彼を突き飛ばして、代わりにその鋭利ではない刃物に肉を貫かれる。
唇を噛んで痛みを堪えながら、全貌の見えない首謀者の、僅かに現れた腕を思いきり掴んで捕まえた。
後ろで呆気にとられている諸伏警部に、その矛先が向かないようになんとか犯人の行動を抑える。
大声で2階に居る彼らを呼び出して、すぐさま返事が返ってくる。
私の後ろで「ちょっくらすみませんよ!!!」と猪野さんの声と同時に上原さんが慌てる声と、諸伏警部が私の名前を呼んだのが聞こえた。
大和警部は離れたところに居るはずだから大丈夫だろうと判断して、持っていた銃を構えて容赦なく犯人に撃ち込む。
すると、まるで布が取れたみたいに犯人が顔を見せた。
同時に、私を貫いていた呪具から手が離れる。
代わりにナイフを出してきて、私の銃を押しのけようとしてきた。
今回の犯人は男らしい、どうりで私を容易く刺せたわけだ。
ほんと最悪。
刺されたところがとんでもなく痛む。
なんだか血が大量に流れている気もするし。
2階で帳を解き終わった心結から投げ渡された刀を、なんとか受け取って銃を捨てて応戦する。
私は男のナイフを叩き捨てて、そのまま男を床に押さえつけた。
腕だけじゃ抑えれる自信がなくて、ヒールで腕を踏んでそのまま男の上に跨る。
すかさず心結が男の腕を呪具で拘束して、術式を使えなくした。
すると、逃げられないことを悟ったのか、男が口を開いた。
今思えば、私も男も血を流していたから、お互いに貧血状態で思考が回っていなかったと思う。
男がニヤリと笑った。
心臓がドクリと脈打ったと同時に、背中に冷や汗が流れるのが分かる。
私は一瞬意識がぐらりと揺れた。
なんとか刀を床に突き刺して柄の部分に体重をかけてもたれる。
遠くで悠仁が私の名前を呼ぶ。
心なしか、本当に目を開けているのが辛くなってきた気がした。
男はもうすでに意識を失っているようだった。
こちらに駆け寄ってきた悠仁に、目線を向けてなんとか言葉を絞り出す。
今更になって、どんどんと指先が冷たくなってきた気がした。
貧血どころじゃ済まないだろうに。
というか、…なぜだろうか、私の幻覚なのか。
避難させた県警の3人もこちらにやってきている気がする。
…幻覚ではなかったらしい。
私は悠仁に傷口を圧迫されながら、床で力なく横たわっていた。
なんかもう無傷な人たちを見ていたら、安心して力が抜けてしまった。
ふと悠仁を見たら、もう”絶望”って表情をしていた。
そんな顔しないで、と言いたいところだけれど生憎今の私にそんな力は残っていなかった。
こうして、沢山の人に名前を呼ばれながら私は意識を手放してしまったのである。
いつの間にかこの作品も書き始めて1年が経ちました…!
全然物語進んでなくてごめんなさい!!!!
よくよく考えたら2000人弱の方が待っていると思って、更新に至りました!!!
おかげで今回のお話が一番長くなってしまいましたが…
こちらの作品が2025年の1月6日に執筆し始めて、毎日投稿していた時期もあって、その時の私すごいな…と思っています。
これからもちまちまと書き続けていきたいと思っています…気長に待てる方は是非これからもよろしくお願いします!!!













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。