腕に注射針が触れる直前で 、
急に針がブレて大きな音が聞こえた 。
俯いていた顔を上げれば 、
倒れた男の人とニヤリと口角を上げる楓さん 。
呆気にとられて口が塞がらない 。
いつの間にか部屋を出ていたらしい
明那さんと叶さんが部屋に戻ってきて 、
返り血が跳ねた頬を拭った 。
当たり前に会話を続ける四人に
慌てて叫ぶ 。
叫ぼうと思ったけれど 、
喉から出たのは思ったよりも掠れた
情けない声になった 。
叶さんが拘束具を外してくれ 、
ため息を吐いた葛葉が椅子の前にしゃがんで
紅い瞳で見上げてくる 。
あぁ 、 やっぱり 。
大好きな紅い紅いお月様は 、
いつ見ても煌めいて 、 輝いて 、 綺麗だ 。
『 帰ったら 』って 、 なに 。
帰っていいわけない 、
ずっと騙して 、 無理やり拾わせて 。
迷惑しかかけてないのに 。
呼びかけられて顔を上げる 。
葛葉の後ろに立っている明那さんは 、
柔らかく微笑みながら口を開く 。
ずるい 。 だって絶対 、 分かって聞いてる 。
そう言って笑う明那さんの顔が 、
じわりと滲んだ 。
次々に零れてくる雫を必死に拭うけれど 、
拭っても拭っても流れてくる 。
横から伸ばされた叶さんの手が
そっと頬を包んだ 。
ブルーグレイの瞳がそっと細まる 。
柔らかい笑みの形に上がる口角に
また零れた涙は 、 叶さんが拭ってくれた 。
話す葛葉と楓さんを見ながら 、
「 そういえば 」と思い出す 。
さっきからスピーカーから音がしない 。
男の人は何をしているのだろう 。
スピーカーから音が聞こえ 、
何事かと見上げる 。
そこから聞こえてきた声は 、
聞き覚えのある声だった 。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。