季節は少しずつ変わっていた。
窓から入る風も、前よりやわらかい。
あの日から。
長尾謙杜とは、前みたいに話さなくなった。
気まずいわけじゃない。
ただ、お互い少し距離を置いている。
でも時々、目が合う。
そのたびに胸は少し痛むけど。
前みたいに、苦しくて息ができなくなることはなくなっていた。
昼休み。
教室のドアから、彩葉が顔を出す。
最初の頃なら、想像もできなかった。
でも今は。
自然にそう返せる。
廊下を並んで歩きながら、彩葉が笑う。
くだらない会話。
でも、それがなんだか心地いい。
あなたの下の名前がぽつりと言う。
すると彩葉は少しだけ笑った。
その言い方がおかしくて、思わず2人で笑う。
少しして。
彩葉がジュースを見つめながら、小さく呟いた。
冗談っぽく笑う。
でも、その目はちゃんと本気だった。
あなたの下の名前は少しだけ照れながら笑う。
彩葉はそう言って、軽く肩をぶつけてくる。
あんなに苦しかった恋。
泣いて、逃げて、傷ついて。
もう全部終わったはずなのに。
不思議と、“嫌な思い出”にはなっていなかった。
放課後。
窓の外をぼんやり見ていた時。
ふいに視線を感じる。
顔を上げると。
少し離れた席から、長尾謙杜がこっちを見ていた。
一瞬だけ、目が合う。
すると長尾くんは、少し困ったみたいに笑って。
静かに目を逸らした。
その横顔を見ながら、あなたの下の名前は思う。
きっと、この恋は終わった。
でも。
ちゃんと好きだったことまで、消えたりはしない。
好きなんて言えなかった。
言えないまま、苦しくなることも多かった。
でも。
気づけば、あなたしか見えなくなっていた。
そして今は。
ちゃんと前を向いて、笑えている。
END.













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。