第21話

ちゃんと終わらせて、ちゃんと進む
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2026/06/11 11:29 更新
季節は少しずつ変わっていた。

窓から入る風も、前よりやわらかい。

あの日から。

長尾謙杜とは、前みたいに話さなくなった。

気まずいわけじゃない。

ただ、お互い少し距離を置いている。

でも時々、目が合う。

そのたびに胸は少し痛むけど。

前みたいに、苦しくて息ができなくなることはなくなっていた。

昼休み。
彩葉
彩葉
あなたの下の名前〜
教室のドアから、彩葉が顔を出す。
彩葉
彩葉
購買行こ
最初の頃なら、想像もできなかった。

でも今は。
(なまえ)
あなた
今行く
自然にそう返せる。

廊下を並んで歩きながら、彩葉が笑う。
彩葉
彩葉
ねえ、今日の数学終わった?
(なまえ)
あなた
終わってない
彩葉
彩葉
やば、一緒じゃん
くだらない会話。

でも、それがなんだか心地いい。
(なまえ)
あなた
…不思議だね
あなたの下の名前がぽつりと言う。
彩葉
彩葉
ん?
(なまえ)
あなた
前まで、こんな風になると思ってなかった
すると彩葉は少しだけ笑った。
彩葉
彩葉
私も
彩葉
彩葉
絶対バチバチで終わると思ってた
その言い方がおかしくて、思わず2人で笑う。

少しして。

彩葉がジュースを見つめながら、小さく呟いた。
彩葉
彩葉
でもさ
彩葉
彩葉
あなたの下の名前でよかった
(なまえ)
あなた
え?
彩葉
彩葉
だって他の子だったら、普通に嫌いになってたもん
冗談っぽく笑う。

でも、その目はちゃんと本気だった。

あなたの下の名前は少しだけ照れながら笑う。
(なまえ)
あなた
なにそれ
彩葉
彩葉
あなたの下の名前、優しすぎるんだよ
彩葉はそう言って、軽く肩をぶつけてくる。

あんなに苦しかった恋。

泣いて、逃げて、傷ついて。

もう全部終わったはずなのに。

不思議と、“嫌な思い出”にはなっていなかった。

放課後。

窓の外をぼんやり見ていた時。

ふいに視線を感じる。

顔を上げると。

少し離れた席から、長尾謙杜がこっちを見ていた。

一瞬だけ、目が合う。
すると長尾くんは、少し困ったみたいに笑って。

静かに目を逸らした。

その横顔を見ながら、あなたの下の名前は思う。

きっと、この恋は終わった。

でも。

ちゃんと好きだったことまで、消えたりはしない。

好きなんて言えなかった。

言えないまま、苦しくなることも多かった。

でも。

気づけば、あなたしか見えなくなっていた。

そして今は。

ちゃんと前を向いて、笑えている。
END.

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