私はいつまで嘘をつかなきゃいけないの。
私はいつまで,四葉の記憶に囚われなきゃいけないの。私は,君が死んだ時に君に触れて,家族想いの良いお兄ちゃんだって事が分かっていたの。
私はあれから彼に変わって弟さんのお見舞いに行った。私が彼を殺した同然だったから。私が”あの組織”に入っていたから悪かった。もう誰かに嘘なんてつきたくない。それでも嘘をつき続けるの。
私は所詮ただの道具でしかない。その時脳裏によぎる言葉は決まってそう。『感情を持つな』,『人に期待するな』,『お前は道具だ』。もうそんな言葉聞き飽きたのになんでそんな事しか頭にうかばないの。
昔から感情を隠すのが苦手だった。
感情が豊かだったのかもしれない。幼い頃から始まった実験続きの毎日。愛想の悪い先生も,幼い頃から付けられたNo.3という番号。名前なんてなかった。けど小さい頃は絵を描いて遊んでいた。
小さい頃に絵本で見た”パパ”という存在。その存在に私は会ってみたかった。パパは娘や母のためにお仕事をして休日は皆で遊んで家族を笑顔にさせてくれる存在なの。私はパパにママを笑顔にして欲しいと思ったの。
「先生,私のママいつも悲しそうなの!私のパパはどこにいるの?パパに元気貰わないと!」
「───あなたのパパは郊外っていう遠いところに行ってしまったの。だからしばらくは会えないよ。」
先生はそう教えてくれたの。でも私は気づいたの。ママのパパ,私にとってのパパはすでに川を渡っちゃったって。その時私はすごく涙が出た。先生は冷たいのに優しいのはなんで。パパと会えないのはなんで。なんでママはいつも泣いているの。
「だってパパ帰ってこないじゃん…。」
先生の嘘つきとも思った。私はそうやって寂しい白い牢獄で何年もすごしたの。
思い出しただけで頭が痛くなる話だ。今日も四葉の代わりに三葉くんの様子を見に行く。今日は病院の雰囲気がなんだか良かった。受付の人が笑顔になっていた。そんな事は気にせず私は面会時間になるまで待ち受付の人に話しかける。
「今日も来てくださったのですね。三葉さんお目覚めになりしたよ。良かったですね。うふふ。」
心做しか嬉しそうにしていた。瞳孔が開いたのは理解した。早足で病室のドアを開けると四葉に似た男の子がぼけーっと窓の外を覗いていた。私が来たのに気づき唖然とした顔で私の顔を眺める。
「あなたは?僕なんでここに。」
出しにくそうな裏返りそうな声で三葉は私に問う。
三葉の言葉を無視して慌てて近づく。ちょっとキョドったようだったが身体の動きがあまりにも鈍くリハビリも上手くいっていない様子だった。まず私は謝りたかった。三葉のベッドの近くまで行くと両膝をついて頭を下げベッドに顔埋めた。
「ごめん。四葉…,君のお兄ちゃん死んじゃったの。私の,全部私のせいなの!!!」
泣いてるのをバレないように大声で謝る。視界が暗くて涙が布団に染みる。涙が出て堪えられなかった。ぎゃんなきする私を見てなのかまたキョドっていた。三葉も辛いはずなのに怒るでも泣くでもなくただ悲しそうな顔をしていた。大人びていたその顔は所詮ただの痩せ我慢にすぎないのだった。
私を心配したのか暗い視界の中,三葉は私の手をそっと握る。触れた時,三葉の気持ちが一気に脳へいきわたるような微量な電気を感じた。本当は泣きたいのに我慢して自分が死ねばまだ普通に生きていたのかもしれないと考えていた。三葉の手先まで行き渡るような悲痛な感情流れ込んだ。感情が漏れて記憶情報が簡単に開けられてしまうのだ。だがそんな事は彼には言わず私は三葉の記憶情報接続に権限のセキュリティを掛け三葉以外の記憶にならないようにしてみせた。酷い後悔と絶望だけだったんだ。そのとき私は何故か手をぎゅっと握り泣いて謝った。
「ごめ…なさい…。君は唯一大切な家族を失いずっと耐えてきた。でも強がらないでないていい。君は素敵な弟だって四葉あの時言ってたの。四葉は君との思い出を大事にしてたの。」
所詮、データで残された記憶。所詮データ上の記憶なんだ。所詮虚像、鏡に写された記憶のようなものだから私には弔った相手の記憶が送られて脳を伝っても悲しみは理解できないの。
「ごめんなさいっっ。君のお兄ちゃん死んじゃったの全部全部っ全部!!私のせいなのっ…!!!ごめんなさいぃ。四葉君の悲しみ分からなくてっ。四葉君の本当の友達にならなかったの。ごめんなさいっ。私が殺したの!!!!私はっ…。」
頭が混乱したの。何が本当か本当のことを言ったのか嘘を言ったのか分からなくなったの。もう全部分からなくなった。周りの音が聞こえなかった。頭の中に声が聞こえた。私の声が。
『君が殺した。四葉は君のせいで死んだの。』
「いやだ…、現実なんて見せないで…。」
『あなたは所詮創りもの。感情は殺せ。機械に感情なんていらないよね?』
「私は機械じゃない機械じゃない…。」
『あなたは所詮兵器だ。あなたは四人の中で一番の劣等生。無能だ。さっさと壊れ───』
途中肩が揺らされるような感覚になった。すると身体の感覚が戻り真っ暗な視界がまた見えるようになった。目の前を見ると三葉君が肩を揺らしていた。
「大丈夫ですか…?急に下を向いたと思ったら急にブツブツして目が真っ黒になってましたよ。思い詰めてるようでしたら一度心療内科にでも───」
「───大丈夫。ごめん心配させて,本当に大丈夫だから大丈夫。だから心配しないで。」
少し焦り大丈夫を強調してしまいそのせいかさらに疑いの目で見られる。三葉君には悪いことをした。罪悪感で心が黒くなるような真っ黒な感覚になる。瞳が真っ黒に染まる。視界がぼやけてノイズや色ズレを起こし視界が徐々にブレていく。
「やっぱり大丈夫じゃないですよ。それに兄はもう長くはなかったんです。戦死せずともいずれ熱脈異常で亡くなっていた。あなたは悪くない。」
目を合わすことは出来ないが瞬きの頻度が上がり泣きそうな顔をしていた。瞼が震えていた。家族がいなくなった苦しみは私には分からない、人の悲しみを分かろうと思ったことはある。でも、人の暖かさや温もりに触れたのは初めてなんだ。亡くなった人は亡くなる前沢山の後悔を持って死んで往く。救われないとはじめて思ったんだ。何を今更救われたいだなんて怠惰の極みだ。一度救いを無くせば何もかも空っぽになって痛みだって欲だって感じなくなるのに。何もかも失えば死ぬ理由は十分あるのに。もう生き返らないのになぜ私は,私たちは泣いているのだろうか。なぜ涙が出るのだろうか。
『彼女は姉妹の愛を知らなかったんだ』
『二度と帰らないパパに二度と戻らない人間の愛』
『彼女はもはや人間ではないのだ』
『だって壊れた人間なんてただの機械だ』
『二度と信じられない歴史に記録』
『心から信じられない先生にお姉ちゃんたち』
『涙に本音も感情を捨てようとした彼女の心に花が咲くことはもうないのかもしれない。』
『不安定な心も誰も気づかない気づいてくれない気づこうともしないから人間に期待しない』











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。