私の体調も万全になって、
あのDA医療センターから退院した日のことである。
寮まで送ると申し出てくれた兄と歩いていた最中、
私はふと思い出した。
私が隣で歩く兄にそう問いかけると、
兄は一瞬固まってから、ゆっくりと顔を背ける。
何この反応、怖。
そう思って兄の方を見つめると、
兄の顔から冷や汗が垂れた。
…… 駄目か。
無視を続けるお兄ちゃんの反応に
軽く落ち込む。
私にそこまで話したくない理由なんて、
一体何があるのだろうか。
兄がどうしても話したくないと言うならば、
別にそれは聞かないけれど。
埒が明かない。
私が顔を背け続ける兄の手に触れると、
一瞬兄の肩が跳ねた。
兄がこうして人と触れるのは、
もしかしたら数年ぶりになるのだろうか。
私がぎゅっと兄の手を握ると、
兄は弱々しくそれを握り返した。
◇
かくして、やってきましたオブスキュアリ。
「教育に悪い」なんて
よく分からない言葉を宣った兄の反対を押し切り、
オブスキュアリへと足を踏み入れる。
中は少し薄暗くも、雰囲気のあるバーのようだ。
私がお洒落な内装に気を取られていると、
兄から遠慮がちに手を掴まれた。
どうにも兄は一刻も早く私に帰って欲しいようだ。
それはまるで、誰かが来るのを恐れているような____
兄に手を掴まれながら会話をしていると、
奥から足音と共に声が聞こえた。
如何にも大人、というか。
余裕が声の節々から感じられるような、
甘く低い声だった。
私が顔を横に向けると、_____そこには、
兄にも劣らない整った顔立ちの男性が立っている。
__貴方が兄の言っていた「教育に悪い」原因ですか?
そう声に出しかけて、
あまりにも失礼すぎると言葉を飲み込む。
兄は「最悪」と小さく呟いて頭を抱えた。
どうやらやっぱり、
兄が私を来させようとしなかった原因は彼らしい。
妖美な雰囲気を纏った男性は、
私と兄が手を触れている所を目に映し
一瞬驚いたように目を丸くした。
男性は兄と軽く談笑(一方的)をしたあと、
その吸い込まれそうな目線を私にやる。
吟味するようなその目線に、
心臓が縮こまるような感覚がした。
これが、彼____兄の友人(多分)の吸血鬼と、
私が邂逅を果たした瞬間であった。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。