特待生は思わず声を上げると、
怪異はそれは楽しそうに変な叫び声で喚いた。
______ なに、これ、なにこれなにこれ怖い!!
特待生の身体は無意識に硬直し、
恐怖から声すらあげられなくなる。
ここに来てから何度だって
目も当てられないほど怖い怪異を見てきたくせに、
未だ特待生はこれらに慣れる気がしない。
震える吐息を吐き出して、特待生はへたりこんだ。
異形の怪異は裂かれたような口角を更に歪ませて、
特待生の声に舌なめずりをする。
どうやら、平和的解決はするつもりがなさそうだ。
_____連絡、しておけばよかった。
変な意地を張らずに、
さっさと累に連絡していればよかった。
この異形の怪異に見張られているせいで、
特待生は身動きひとつ取れない。
特待生は後悔の念に駆られながら、目を瞑る。
「 _________《クンツァイト》 」
直後聞こえたのは、怪異が床に倒れる音だった。
◇
オブスキュアリに入り浸るようになってから数週間。
機嫌良さげに鼻歌を歌いながら、
兄はカウンターで微睡んでいた私にそう言った。
この時間帯はどうにもお昼寝をしたい本能が働くのか、
いい雰囲気のバーでウトウトしていたというのに。
私が不満げに兄の方を見ると、兄は微笑む。
こう、笑顔で非情なことを言ってくる人だから困る。
私に反論が許されている訳もなく、
渋々カウンター席から立ち上がると、兄は苦笑した。
あからさまに項垂れる兄の様子に、
思わず私は「ふ」と軽く笑い声が漏れる。
兄の返事も表情も見ないまま、
私はオブスキュアリを飛び出した。
だって、兄がキョトンとした
表情を浮かべていることくらい、
予想はついていたのだから。
さて。迎えに行こうと飛び出してから数分。
確か入学式でちらっとみた「特待生ちゃん」さんを
探しに来たわけですが。
__どうやら、迎えに来たのは正解だったらしい。
異形の怪異が泡を吹いて倒れているのを確認した後、
私はできるだけ安心させようと笑顔を作って、
彼女に手を差し伸べる。
この怪異が暴走していたのだ。
学園から脱走したのか逃亡したのか知らないが、
彼女は怪異に襲われかけていた。
何の力もない一般人では、怪異に太刀打ちできない。
その恐怖は私もよくわかっているつもりだ。
彼女の目には___涙が滲んでいた。
彼女は恐る恐る私の手を取り、
ゆっくりと立ち上がる。
彼女の目に映る私が、
一体どんな表情をしていたか。
あまり、よく覚えていない。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!