第30話

飾らない
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2023/12/16 11:00 更新
「……気を遣わなくてもいいのよ、七菜香ちゃん」

 楓さんがそっと目を伏せる。

「少しの間過ごしただけでわかる。あなたはどうしようもなく優しい人よ、七菜香ちゃん」

 ちがう。ちがうんです。
 私はひどい人間だ。理玖を殺したんだ。

「あなたが自分を呪ってしまった理由なんて容易に想像できるわ。他人からの罵声か何かが棘となって、心に刺さったままなのね」

 私を罵倒する人なんていなかった。私の周りにいたのは優しい人ばかりだった。
 そんな人たちに恩も返せない。優しさを恵んでもらうばかりだった。

 お母さんにもお父さんにも、何も返せていない。ここまで育ててくれた恩を、ずっと。

 理玖だって、あんなに、あんなに優しくしてくれていたのに。私は……

「大丈夫。那月くんやあたしが、あなたに刺さったままの棘を抜いてあげるから」

 私は、三条七菜香という人殺しが美化されるのは許せない。

「ちがう!!」

 渦巻く感情が暴走して、勝手に口から飛び出した。楓さんが目を見開く。

「わたしは、わたしは人殺しだ。大好きだった人を見殺しにしたんだ……!」


 涙が溢れ出す。悲しいからでも、寂しいからでも、怒っているわけでもない。私の心が、私という檻から逃げだそうと暴れ回っている。感情が激化していく。

「許さない、許せない、私は! 殺してやるって……! 何度も何度も何度も自分に刃を向けたのに!」

 暗い台所で、涙を流しながら包丁を自分の胸元に当てていた。それが私の胸を貫くことはなかったけれど。

「結局私は私を殺せない! 理玖の仇を庇うような! そんな! 人殺しを……っ!!」

 体の中で暴れていた感情達が鎮まり始める。次第に力が抜けて、座っている楓さんの足元に縋り付く。

 さっきまで同じソファーに座っていたのに、今、私は身勝手に感情を吐き出して、当たり散らかしていた相手に縋り付いている。ひどく惨めで、哀れだ。

 嗚咽の漏れる喉から、か細い声で懇願する。

「お願いだから、そんな、善良な人間のように言わないで……」

 私のことを、優しい人なんて言葉で飾らないで。

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