「……気を遣わなくてもいいのよ、七菜香ちゃん」
楓さんがそっと目を伏せる。
「少しの間過ごしただけでわかる。あなたはどうしようもなく優しい人よ、七菜香ちゃん」
ちがう。ちがうんです。
私はひどい人間だ。理玖を殺したんだ。
「あなたが自分を呪ってしまった理由なんて容易に想像できるわ。他人からの罵声か何かが棘となって、心に刺さったままなのね」
私を罵倒する人なんていなかった。私の周りにいたのは優しい人ばかりだった。
そんな人たちに恩も返せない。優しさを恵んでもらうばかりだった。
お母さんにもお父さんにも、何も返せていない。ここまで育ててくれた恩を、ずっと。
理玖だって、あんなに、あんなに優しくしてくれていたのに。私は……
「大丈夫。那月くんやあたしが、あなたに刺さったままの棘を抜いてあげるから」
私は、三条七菜香という人殺しが美化されるのは許せない。
「ちがう!!」
渦巻く感情が暴走して、勝手に口から飛び出した。楓さんが目を見開く。
「わたしは、わたしは人殺しだ。大好きだった人を見殺しにしたんだ……!」
涙が溢れ出す。悲しいからでも、寂しいからでも、怒っているわけでもない。私の心が、私という檻から逃げだそうと暴れ回っている。感情が激化していく。
「許さない、許せない、私は! 殺してやるって……! 何度も何度も何度も自分に刃を向けたのに!」
暗い台所で、涙を流しながら包丁を自分の胸元に当てていた。それが私の胸を貫くことはなかったけれど。
「結局私は私を殺せない! 理玖の仇を庇うような! そんな! 人殺しを……っ!!」
体の中で暴れていた感情達が鎮まり始める。次第に力が抜けて、座っている楓さんの足元に縋り付く。
さっきまで同じソファーに座っていたのに、今、私は身勝手に感情を吐き出して、当たり散らかしていた相手に縋り付いている。ひどく惨めで、哀れだ。
嗚咽の漏れる喉から、か細い声で懇願する。
「お願いだから、そんな、善良な人間のように言わないで……」
私のことを、優しい人なんて言葉で飾らないで。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!