錆兎の腕の中にいると、世界が静まる。
風の音も、夜のざわめきも、全部遠のいていく。
代わりに、心の奥に溜まっていた痛みが、ゆっくりと溶け出すのが分かる。
錆兎はいつもそうだった。
まっすぐで、迷いがなくて、俺の足りないものを全部持っていた。
それが嬉しくて、苦しくて、どうしようもなく怖い。
名前を呼ぶだけで、喉の奥が焼けるように痛む。
錆兎が俺を腕に閉じ込めたまま、俺を見下ろす。
俺は、言おうとしたことを仕舞った。
錆兎の瞳の奥に、あの時の光があった。
夕暮れのような、悲しみを孕んだ橙色の光。
きっと、錆兎は俺が何を言おうとしたか、解ったのだろう。
――そうだ、俺たちはあの日から何も変わっていない。
錆兎はいなくなって、俺は取り残されて。
それでも、こうしてまた向き合ってしまった。
互いの罪と、愛しさと、未練を抱えたまま。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。