全部全部、寒さのせいだ
寒くてなかなか布団から出られなくて、そのせいで今朝はどたばたして、それでマフラーを忘れたのだ
「やっぱりマフラーあるとないじゃ違うな…」
部活の帰り際、そんな馬鹿な私の首には、スガさんのマフラーが巻かれていた
優しいスガさんが気付いて貸してくれたのだ
マネに風邪を引かれたら困るから、と言われて借りてしまった、けれども
「遅かったな」
「ごめんね、鍵返すの遅くなっちゃって」
実は私には彼氏というものがいたりして、その名も影山飛雄だったりするんだけど
スガさんのマフラー巻いてる私を見て
はてさて、どう思うんだろう
「……それ」
「あ、スガさんに貸してもらったんだ」
「……そうか」
会話終了
じーっとマフラーを見てくるから、もしかして、ってちょっと思ったけどまあ、影山だもんね
バレーしか見えてない奴だし、そもそも彼氏がいるのに他の男からマフラー借りてる私の方こそどうなんだ
「……今日も寒いね」
尽きてしまったので新しい会話をと
影山と二人並んで歩き出した道すがら、何気ない話題を振ってみた一言だった
「……寒いか?」
「うん、寒いよ」
影山の返事に頷いた直後のこと
影山が急に立ち止まるから、私も数歩遅れて立ち止まって振り返った
そしたら影山は、無言で手を伸ばしてきて
「……つ、繋ぐってこと?」
どきどきしながら自分の手を重ねた瞬間、握られた手が引かれて、私の体は影山のもとへ飛び込んだ
抱き締められてるのに気付いた時には、さっきの比じゃなく心臓がうるさくて
体温は上がるし、多分耳まで真っ赤だし
「こうすれば暖かいか?」
「……あー、えーと、うん」
「どうした」
「び、びっくりして」
「悪い、これしか思い浮かばなかった、お前を暖める方法」
いや、たちが悪いってば
確かに寒いとは言ったけど、恋人らしく手を繋ぐくらいだと思ってた
何なら影山だもん、手を繋いでくれただけでも感動ものだとか思ってた
「……本当は、さっき、菅原さんのマフラー巻いてるお前見て、何かもやもやした」
そういう変化球は読めなさすぎる
影山もやきもち妬くなんて聞いてない
「次は俺がマフラー貸す」
どこか悔しそうな拗ねた声で、耳もとでもごもご聞こえる呟きは、私の心を振り回すには十分で
もう寒いのか熱いのかも分からなかった












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!