第17話

途切れなかった旋律
214
2025/08/18 12:00 更新
カフェを出ると、夜風が頬を撫でた。
駅前の街路樹は小さく揺れ、遠くでバスのエンジン音が響く。
俺とあなたちゃんは並んで歩いていた。手はもう繋いでいない。でも、隣にいる距離がやけに近い。
(なまえ)
あなた
なんか…変な感じですね
純喜
何が?
(なまえ)
あなた
三年も会ってなかったのに、こうして普通に歩いてる
純喜
普通ちゃうやろ。めちゃくちゃ特別や
俺は半分冗談みたいに言ったけど、胸の奥は本気だった。
三年分の空白を埋めるためには、特別な時間しか足りない気がした。

ふと、信号待ちの間に、彼女が小さな声で口ずさんだ。
それは俺たちが初めて合わせた曲だった。
純喜
覚えてるんやな
(なまえ)
あなた
忘れるわけないじゃないですか
その声は、冬の夜に似合う柔らかさを持っていた。
純喜
…俺、あのときからずっと歌ってた
(なまえ)
あなた
見てました。舞台の動画でずっと
純喜
じゃあ、あれも?
(なまえ)
あなた
もちろん
彼女はくすっと笑った。信号が青に変わる。

歩き出しながら、俺は不意に聞いてしまった。
純喜
向こうで…誰か、好きな人できた?
彼女は少し驚いた顔をして、前を見たまま答えた。
(なまえ)
あなた
…できませんでした
純喜
なんで?
(なまえ)
あなた
…純喜さんを忘れる方法が、わからなかったから
足が一瞬止まりそうになった。
純喜
(なんやそれ…)
俺は笑ってごまかそうとしたけど、うまく笑えなかった。
純喜
それ、俺が言いたかったやつや
(なまえ)
あなた
え?
純喜
俺も、忘れられへんかった
夜風が、二人の間をそっとすり抜けた。

駅の改札が見えてきた。別れの時間が近づく。
純喜
…明日も会える?
(なまえ)
あなた
明日?
純喜
急に言うなって思うやろけど、もう時間を無駄にしたくない
彼女は少し驚いたあと、嬉しそうに頷いた。
(なまえ)
あなた
…じゃあ、明日
改札を通る直前、彼女が振り返った。
(なまえ)
あなた
純喜さん
純喜
ん?
(なまえ)
あなた
おかえりって言ってくれたとき、本当に帰ってきたんだなって思いました
その一言が、胸の奥で何度も響いた。

彼女がホームへ消えたあと、俺はしばらくその場から動けなかった。
耳の奥では、まだ彼女の声とピアノが鳴っていた。
三年経っても、途切れなかった旋律。
それが今、確かに俺たちを再びつないでいる。

プリ小説オーディオドラマ