カフェを出ると、夜風が頬を撫でた。
駅前の街路樹は小さく揺れ、遠くでバスのエンジン音が響く。
俺とあなたちゃんは並んで歩いていた。手はもう繋いでいない。でも、隣にいる距離がやけに近い。
俺は半分冗談みたいに言ったけど、胸の奥は本気だった。
三年分の空白を埋めるためには、特別な時間しか足りない気がした。
ふと、信号待ちの間に、彼女が小さな声で口ずさんだ。
それは俺たちが初めて合わせた曲だった。
その声は、冬の夜に似合う柔らかさを持っていた。
彼女はくすっと笑った。信号が青に変わる。
歩き出しながら、俺は不意に聞いてしまった。
彼女は少し驚いた顔をして、前を見たまま答えた。
足が一瞬止まりそうになった。
俺は笑ってごまかそうとしたけど、うまく笑えなかった。
夜風が、二人の間をそっとすり抜けた。
駅の改札が見えてきた。別れの時間が近づく。
彼女は少し驚いたあと、嬉しそうに頷いた。
改札を通る直前、彼女が振り返った。
その一言が、胸の奥で何度も響いた。
彼女がホームへ消えたあと、俺はしばらくその場から動けなかった。
耳の奥では、まだ彼女の声とピアノが鳴っていた。
三年経っても、途切れなかった旋律。
それが今、確かに俺たちを再びつないでいる。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!