第18話

もう一度、同じステージで
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2025/08/19 12:00 更新
翌日。
午前中の仕事を終え、俺は楽器店の前で待っていた。
ショーウィンドウには、新しいモデルのピアノとアコースティックギターが並んでいる。
ガラス越しに見えるそれらを眺めながら、彼女の顔が浮かんだ。
(なまえ)
あなた
お待たせしました
振り返ると、昨日と同じ笑顔のあなたちゃんが立っていた。
白いコートに、肩までの髪。冬の日差しを浴びて、少し眩しい。
純喜
楽器見に行くって言ってたやろ
(なまえ)
あなた
はい。…次、一緒にやるための曲を決めたいです
純喜
もう?
(なまえ)
あなた
はい、もう決めたいです
店内は木の香りと、弦や鍵盤の微かな音で満ちていた。
試奏室に入ると、彼女は迷わずピアノの前に座った。
その動作ひとつひとつが懐かしくて、胸が温かくなる。
(なまえ)
あなた
何弾こうかな…
純喜
なんでもええよ。あなたちゃんが好きなやつ
彼女は少し考え、やがて指を置いた。
最初の音が響いた瞬間、俺はすぐにわかった。
それは、三年前に未完成のまま終わった曲だった。
純喜
…覚えてたんや
(なまえ)
あなた
完成させたくて
その声は、鍵盤の音に溶けていくように柔らかかった。

俺は横に立ち、彼女の音に合わせて声を重ねた。
歌詞はまだ完全じゃない。けれど、メロディは昨日の再会からもう出来上がっていた気がする。
一曲終えると、彼女は小さく息を吐いた。
(なまえ)
あなた
やっぱり…純喜さんの声が一番合う
純喜
そりゃ、あなたちゃんのピアノが一番やからや
二人で笑い合う。その笑い声も、音楽の一部みたいだった。
純喜
…また、同じステージに立ちたい
俺の言葉に、彼女は少しだけ目を見開いたあと、強く頷いた。
(なまえ)
あなた
私も。それが、帰ってきた理由のひとつだから
試奏室のドア越しに、店員が小さく拍手してくれた。
俺たちは顔を見合わせて、照れくさそうに笑った。

店を出ると、冬の空は薄い水色で、雲がゆっくり流れていた。
歩きながら、俺はポケットの中で拳を握った。
純喜
(今度こそ、絶対離さへん)

彼女が隣で、小さく口ずさむ。
その旋律に合わせて、俺も声を重ねた。
歩道を並んで歩く二人の影が、夕方の陽に少しずつ伸びていく。

昨日まで空白だった時間が、今は確かな音で満たされている。
その音はきっと、これからも途切れることはない。

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