ぼすん。
震える手でエリーゼを殴る。
毎度のごとく、エリーゼへのダメージは0だ。
お前耐久力高すぎだろ。
私の攻撃力が弱い、なんてことは考えない。
エリーゼの顔に動揺が走った。
……前代未聞だ。
あってはならないことだ。
……どうしようもない危険が近づいている気しかしない。
おい。
私に何をしようと言うんだ。
……あ。
空気が凍り付いた。
マズい。
これは危険だ。
食べなきゃ殺される、そんな感じだ。
にこにこと微笑むグレーテル。
いや怖いって。
数分後。
私、エリーゼ、アレクシア、そしてグレーテルの4人は、
先程までアレクシアがゲームをしていた部屋に座っていた。
アレクシアの顔が引きつっているのは見なかったことにする。
クソが。
グレーテル以外の3人の前には、それぞれクッキーを盛られた皿がある。
クッキーの量は3人とも同じくらい……ではなかった。
私の前だけ、異様に多い。
怖い。怖すぎる。
そう言いながらもアレクシアは膝の上のポテチをバリバリと食べている。
矛盾だ。
矛盾だらけだ。
かちり。
音のした方……右を向くと、エリーゼが無言でピストルに指をかけていた。
左を向くと、アレクシアが無言でナイフに指をかけている。
正面にいるのは、満面の笑みを浮かべたグレーテルだ。
逃げ場がない。
おい。
どうなってんだよクソが。
アレクシアの声が震えている。
エリーゼの瞳は、ここではないどこかを見ているようだ。
ああ、このクッキー。
絶対に美味しくない。
危険だ。
だが、食べないと私の命が危険だ。
……ああもう!!!!!
……ざけんじゃねぇよ!!!!!
意を決した。
クッキーを一つ、口に放り込む。
……視界が、白く染まった。
続く……
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!