「 え 、 」と戸惑う声が聴こえた。
誰のものだったのかは分からない。
しょにだ以外のものだったのは確かだったけど、
もしかしたら 彼を除いた
全員のもの だったのかもしれない。
何しろ、俺だって予想外だった。
弱虫なうさぎは、
震えながらも自身の選択を
包み隠すことはしなかった。
みんなの視線に当てられて、
彼は苦しそうに涙を零す。
困惑しきった顔で、りうらが尋ねる。
しかし、それは質問と言うよりは
混乱がそのまま
口から漏れてしまったように見えた。
そう問うあにきの口調は、
いつもよりおぼつかなかった。
気まずそうに
あにきから目をそらすしょにだの
顔色は悪かった。
それでも逃げずに言葉を綴る彼の姿を見て… …
だろうか、微かに後ろで冷気が
震えるように動いた気がした。
その言葉に、分かっていたはずの俺も、
胸が苦しくなった。
ないこが、呆気にとられたように呟いた。
しょにだが、こくりと頷いた。
その横で、あにきが
またもや眉をひそめる。
しょにだが言いにくそうに、
口をまごつかせる。
しょにだだって、思い出したくはないだろう。
大好きな親友が、
死んでしまったあの日のことなんて。
代わりに俺が、口を開く。
背後で彷徨う、冷気に触れながら。
俺がそう言うと、
あにきが目を見開いた。
そして、納得したように
二回小さく頷いた。
俺たちは、人が死んだ、という先入観から
彼が見たものを誹謗中傷だと思い込んでいた。
しかし、それは誤りだった。
確かにSNSで俺ら六人を調べれば、
批判的な意見を目にすることもある。
でも、それよりも、
大好きなリスナーさんの声、
愛を語る声、愛をくれる声で溢れている。
そう、彼が見たかった言葉は後者だ。
死にたかったしょにだに彼が見せたかったのは、
愛されている最大の証拠。
空気はみんなの苦しみを吸い込んで、
一層重たくなった。
改めて並べても、
どうしようもなく辛かった。
しょにだはほとけのことを信頼しているからこそ、
最期の命綱にほとけを誘って。
その期待通りほとけは彼を止めたが、
しょにだを崖から離そうと
自らがそちら側に立った彼は、
足を滑らせてしまった。
彼は… …しょにだはどう思っただろうか。
一番大切な人が、
目の前で敵も何もいないのに、
むしろ自身の影響で死にゆく現実を。
痛いくらいに、息が苦しくなる。
俺はしょにだに問うた。
言ってから、
「 駅前の 、 」と付け足した。
りうらが怪訝そうな顔をする。
しょにだが、
小さく息を吐く。
ため息というよりは、
何かを諦めたような音だった。
つまり あれは、咄嗟の嘘だったわけだ。
りうらがあの話をしてくれなければ、…
事の全容は見抜けなかったかもしれない。
ないこがはっとしたように、言った。
ほとけが死んでからというもの、
しょにだは何度も死のうとしていた。
追い撃ちされた悲しみに、
自らが抱える自殺願望を
隠すこともなくなった。
だから、しょにだの気持ちに俺たちが
気がついたのは、ほとけが死んだあとのことだった。
相方が死んだ彼が鬱になるのも無理はない。
しょにだは、ほとけが死んだことによって
酷い鬱になってしまった。
そう考え、誰一人不思議に思わなかったが、
彼の中の死にたい、と言う欲求は
今に始まったものではなかったのだ。
しょにだはほとけが死ぬよりもずっと前から、
死にたくてたまらなかった。
ほとけが死んだことは、
その気持ちを加速させただけだった。
またもや彼は、小さく頷く。
その姿を見て、
ないこが表情を歪ませた。
彼はそう嘆いた後、
「 リーダー、失格じゃんか … 」と
囁くような声で言った。
喚くリーダーの姿を見て、
いても たっても いられなくなった のか、
りうらが立ち上がる。
そのまま、
胸に秘めているものを受け渡すように、
そっとないこを見つめた。
ないこにそんな視線を送っていたのは、
あにきもまた、同様だった。
泣き叫ぶようなりうらとは対称的に、
あにきは落ち着き払って吐き捨てるように
そういった。
それはきっと、これまで目にしてきた
絶望の数の差なのだろう。
でも、二人の感情は
流れ方が違うだけで、本質は何も変わらない。
しょにだが、穏やか過ぎるくらいの
落ち着き払った声で発した。
それを聞くと、余計に胸は苦しくなるばかり。
それなのに、
ほとけにはその感情を明かしたというのは … … 。
二人の信頼と、
その結果訪れてしまった
最悪の結末で心が暗闇に包まれる。
しょにだに、尋ねられる。
「 まだりうらは現物も見とらんかったし 」
なんて呟きながら、あにきが鞄をあさる。
果たして、そこからは
紫色の紙切れが出てきた。
それを受け取って、
もう一度その文面を眺めた。
そこには「 僕の意思 」確かにそう書かれている。
でも、どうしてそこに至ったのかは書かれていない。
必要なことのみが記されていて、
淡泊だった。
可愛らしい、紫色のメモ用紙。
色だけでなく、
そこに描かれたイラストも相まって
とてもしょにだらしかった。
取り乱していたないこも、
幾分かは調子を取り戻したようで
少し不思議そうに尋ねた。
そこでりうらがはっとしたように目を見開く。
俺が手にした
それに描かれていたイラストは、
うさぎが飛び跳ねているイラストだった。
りうらがまさか、とでもいいたげに
口元に手を当てた。
俺は頷く。
あにきが、絶句していた。
ややあって、重そうにその口を開く。
そう言うしょにだの声は
飄々としていて … … 、
それでいて、どこか暗かった。
泣きながら、彼は本心を
口から零す。
その言葉が、
流れる空気にじわじわと
染みを作って広がっていく。
僕のせい、なんて、
彼は自身を 呪うかのように、口にする。
つい先ほどまで、
あんなに 怖がっていた 表情が嘘みたいに
淡々と答えていたのに。
時々 言葉は詰まりつつも、
話すって決めたのであろう あのタイミング から、
しょにだは だいぶ 気を持ち直したようにも
見えたのに。
普段よりも、しっかり話していたのに。
また、ほとけが死んでからのいつも通りに
戻ってしまった、
いいや、それより酷くなって。
__ ああ、違う、
本当は、彼は。
ずっと、ずっと
これだけ苦しくて。
さっき落ち着いたように見えたのは、
ちゃんと向き合おう、って
虚勢を張っていただけで。
人間、気合いだけじゃ無理だ。
ただでさえ
体が疲れて 苦しんでいるときなんて、
気合いだけじゃ どうにも できないん だから 。
心が苦しんでいるときに、
気合いだけで、なんて
どうにも なるはずがない。
あまりの言葉に 耐えられず、
あにきが叫ぶように声をかけた。
しかし、しょにだは
それが聞こえていないか のように、
「 意味なんて ないやん 」と続ける。
それを聞いて、もう俺も
じっとは していられなかった。
相方なんだから信じろ、とか。
死んだ人の心なんて
わかんないんだから信じてみろ、とか。
そんなんじゃなくて。
だって 俺は そもそも 知っている。
正解を知っている。
そのうえで、
今のしょにだの言葉が 間違えだと言うことも。
ほとけは
しょーちゃんに
傷ついてほしくない、と言った。
しょーちゃんの笑顔を見たい、と言った。
しょーちゃんから逃げた、と自身を責めた。
それなのに … … 嫌っている?
そんなわけがないだろう。
嫌いな人のことを、
誰がそこまで大切に思うんだ。
ほとけは、ほとけは。
そう言ったとて、
彼は薄い笑みを浮かべるだけ。
諦めたようなそれは、
ほとけが見たいと 望んだ笑顔とは、
似ても似つかない。
もちろん、
俺がいつかは見たいと思っていた
笑顔とも。
思わずそう、叫んでいた。
確かに、
ほとけが死んだ理由は
しょにだにも あったかもしれない。
でも ほとけは、自らが死んだ後も
しょにだのことが大好きだった。
大好きだった からこそ
自らの死因を隠すしかなくて。
大好きだった からこそ
あの時のことを悔やんで。
それでも、
彼には笑っていて ほしいって。
生きていて って。
ほとけが しょにだに対して、
嫌な言葉をこぼしたことは
一度もなかった。
ほとけが しょにだに対して綴ったことは、
常に愛に溢れていた。
だから … だから、大好きに決まっているのに。
それなのに、伝えられない。
ほとけは好きって言ってたよ、
ほとけが しょにだを嫌いになる、なんて
ありえるはずが ないよ 。
そうは思っても、
どう伝えれば良いのか。
幽霊なんて、
言葉だけ言っても 馬鹿馬鹿しい だけだ。
思った。
いくら信じてもらえなくても、
俺は伝えなくては いけないって。
ほとけが俺に望んだこと、
託したこと、
ちゃんと やらないで どうするんだ。
信じて もらえないだろうから
伝えられないなんて、馬鹿みたいだ。
ほとけは、
声すら出せなくて、筆談しかできなくて。
伝えること自体は 何一つ不自由ない 俺が、
一体 何を言っている。
伝えるための道具なら、
充分すぎるくらい 俺は持ち合わせているだろう。
思いっきり、息を吸う。
彼は、
涙を流したまま
数秒悩んでから、微かに頷いた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。