第19話

#18
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2025/07/27 09:00 更新













「 え 、 」と戸惑う声が聴こえた。

誰のものだったのかは分からない。

しょにだ以外のものだったのは確かだったけど、
もしかしたら 彼を除いた
全員のもの だったのかもしれない。

何しろ、俺だって予想外だった。

弱虫なうさぎは、
震えながらも自身の選択を
包み隠すことはしなかった。



 … いむくんを
 あの がけに さそって … 、ッ 




 みごろしに
 しちゃったのは っ 、… … … … 




 ぼく、だよ 
 


みんなの視線に当てられて、
彼は苦しそうに涙を零す。




 … どう 、いうこと っ、? 




困惑しきった顔で、りうらが尋ねる。

しかし、それは質問と言うよりは
混乱がそのまま
口から漏れてしまったように見えた。



 … … な、んでほとけを っ
 … 崖に … ? 




そう問うあにきの口調は、
いつもよりおぼつかなかった。







気まずそうに
あにきから目をそらすしょにだの
顔色は悪かった。

それでも逃げずに言葉を綴る彼の姿を見て… …
だろうか、微かに後ろで冷気が
震えるように動いた気がした。




 … … … しにたかった 、っ から、 




その言葉に、分かっていたはずの俺も、
胸が苦しくなった。

ないこが、呆気にとられたように呟いた。



 しにかったのは… …
 いむじゃ、なかったのっ? 




しょにだが、こくりと頷いた。

その横で、あにきが
またもや眉をひそめる。



 でも、ほとけが
 最期にスマホで見ていたんは… … 
 SNSのエゴサーチやった




 せやから、
 自殺って言われとったんに… … 
 どういうことや?




しょにだが言いにくそうに、
口をまごつかせる。

しょにだだって、思い出したくはないだろう。

大好きな親友が、
死んでしまったあの日のことなんて。

代わりに俺が、口を開く。

背後で彷徨う、冷気に触れながら。



 … … 俺らはエゴサ画面を見て、 
 ほとけがアンチの意見にでも
 押し潰されたんかと思った




 でも本当は __
 その逆だった' ' ' ' ' 'んや 




 ほとけが見ていたのは… …
 リスナーさんの、言葉やった 




俺がそう言うと、
あにきが目を見開いた。

そして、納得したように
二回小さく頷いた。



 ほとけは… …
 しにたかった初兎に
 リスナーさんの言葉を
 見せたっちゅうことか 




 そういうこと、 




俺たちは、人が死んだ、という先入観から
彼が見たものを誹謗中傷だと思い込んでいた。

しかし、それは誤りだった。

確かにSNSで俺ら六人を調べれば、
批判的な意見を目にすることもある。

でも、それよりも、
大好きなリスナーさんの声、
愛を語る声、愛をくれる声で溢れている。

そう、彼が見たかった言葉は後者だ。

死にたかったしょにだに彼が見せたかったのは、
愛されている最大の証拠。



 ほとけは、焦ったんやろな、 




 きっと泣きそうにも
 なっとったし … …
 視界も鮮明やなかった 
 のかもしれない
 



空気はみんなの苦しみを吸い込んで、
一層重たくなった。



 … …つまり、
 自殺するためにしょうちゃんが 
 いむを崖に誘って




 死にたいって言うしょうちゃんを 
 いむが止めようとして… …




 焦ったあまり
 落ちた、ってこと… …? 




改めて並べても、
どうしようもなく辛かった。

しょにだはほとけのことを信頼しているからこそ、
最期の命綱にほとけを誘って。

その期待通りほとけは彼を止めたが、
しょにだを崖から離そうと
自らがそちら側に立った彼は、
足を滑らせてしまった。

彼は… …しょにだはどう思っただろうか。

一番大切な人が、
目の前で敵も何もいないのに、
むしろ自身の影響で死にゆく現実を。



 ああ、事件でも自殺でもなくって…




 ただ、
 守ろうとした末の、事故やった 




痛いくらいに、息が苦しくなる。

俺はしょにだに問うた。



 しょにだ、
 あの日はショッピングモールで 
 パンケーキ食べたって、
 言ってたやんな




言ってから、
「 駅前の 、 」と付け足した。

りうらが怪訝そうな顔をする。



 … …そこは、
 ほとけっちが死ぬよりも前に 
 潰れちゃったはずだよ




 …そう、せやから俺
 おかしいなって思ってん 




 それで、気づいた 




しょにだが、
小さく息を吐く。

ため息というよりは、
何かを諦めたような音だった。

つまり あれは、咄嗟の嘘だったわけだ。

りうらがあの話をしてくれなければ、…
事の全容は見抜けなかったかもしれない。




 … …あれ、
 今更だけどしょうちゃん 




 自殺するために
 誘ったってことは … 、 





ないこがはっとしたように、言った。


 

 しょうちゃん… …
 いむが死ぬよりも前から、 
 死にたがっていたの?





ほとけが死んでからというもの、
しょにだは何度も死のうとしていた。

追い撃ちされた悲しみに、
自らが抱える自殺願望を
隠すこともなくなった。

だから、しょにだの気持ちに俺たちが
気がついたのは、ほとけが死んだあとのことだった。

相方が死んだ彼が鬱になるのも無理はない。

しょにだは、ほとけが死んだことによって
酷い鬱になってしまった。

そう考え、誰一人不思議に思わなかったが、
彼の中の死にたい、と言う欲求は
今に始まったものではなかったのだ。

しょにだはほとけが死ぬよりもずっと前から、
死にたくてたまらなかった。

ほとけが死んだことは、
その気持ちを加速させただけだった。







またもや彼は、小さく頷く。

その姿を見て、
ないこが表情を歪ませた。




 … じゃあっ、俺は、ッ 




 メンバーが … ッ、
 死にたがってるのにも、
 気づけなかったってことっ、!? 





彼はそう嘆いた後、
「 リーダー、失格じゃんか … 」と
囁くような声で言った。

喚くリーダーの姿を見て、
いても たっても いられなくなった のか、
りうらが立ち上がる。



 ないくんだけが、ッ…
 悪いわけじゃないっ、! 




 俺だって … りうらだってっ、! 
 しょうちゃんに
 何にも できなかったっ!! 




そのまま、
胸に秘めているものを受け渡すように、
そっとないこを見つめた。






ないこにそんな視線を送っていたのは、
あにきもまた、同様だった。



 んなこっといったら、
 俺やって
 相方なんに気づけんかったっ、 




 最年長、失格やな 




泣き叫ぶようなりうらとは対称的に、
あにきは落ち着き払って吐き捨てるように
そういった。

それはきっと、これまで目にしてきた
絶望の数の差なのだろう。

でも、二人の感情は
流れ方が違うだけで、本質は何も変わらない。



 気付かなかったくらいなら、 
 逆によかった




しょにだが、穏やか過ぎるくらいの
落ち着き払った声で発した。




 隠しとったんやもん、
 心配されたなくてな 




それを聞くと、余計に胸は苦しくなるばかり。

それなのに、
ほとけにはその感情を明かしたというのは … … 。

二人の信頼と、
その結果訪れてしまった
最悪の結末で心が暗闇に包まれる。



 … … むしろ、まろちゃんは 
 僕のアリバイが
 変だったとは言え … 、
 



 どうして僕が死にたかったの、 
 気づいたん?




しょにだに、尋ねられる。



 … … あの、遺書や 




 それ… …持っとるけど 




「 まだりうらは現物も見とらんかったし 」
なんて呟きながら、あにきが鞄をあさる。

果たして、そこからは
紫色の紙切れが出てきた。
 



 ありがと、 




それを受け取って、
もう一度その文面を眺めた。

そこには「 僕の意思 」確かにそう書かれている。

でも、どうしてそこに至ったのかは書かれていない。

必要なことのみが記されていて、
淡泊だった。



 … これ、
 メモ帳のとある一ページ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' 'に 
 かかれとるやろ?




可愛らしい、紫色のメモ用紙。

色だけでなく、
そこに描かれたイラストも相まって
とてもしょにだらしかった。



 … … … それがどうしたの 、? 



取り乱していたないこも、
幾分かは調子を取り戻したようで
少し不思議そうに尋ねた。



 りうら、前に話したとき 
 言っとったやんな




 ほとけが死んだ日、
 二人がメモ帳が可愛い、なんて 
 話しとったって




 うん 、確かうさぎの… … 




 __ あれ? 





そこでりうらがはっとしたように目を見開く。

俺が手にした
それに描かれていたイラストは、
うさぎ' ' 'が飛び跳ねているイラストだった。



 だけど、
 そのときしょにだは言ったんやろ? 




 そのメモ帳は
 どこで買ったか忘れちゃったし、 
 すでに使い切っちゃった、って




りうらがまさか、とでもいいたげに
口元に手を当てた。




 じゃあ、これって… … 



俺は頷く。



 ほとけが死ぬよりも前' ' ' ' ' ' ' ' ' '
 書かれたっちゅうことや 




あにきが、絶句していた。

ややあって、重そうにその口を開く。



 初兎がそれを書いたんは… … 
 ずっと前やったんか、


  

 そう、やな … 




 … よく、
 そこまで見抜いたな、まろちゃん 






そう言うしょにだの声は
飄々としていて … … 、
それでいて、どこか暗かった。



 … 僕、もうやだな 




泣きながら、彼は本心を
口から零す。

その言葉が、
流れる空気にじわじわと
染みを作って広がっていく。



 いむくんがっ… …
 僕のせいで死んで 



 
 気が動転してたからって ッ 、
 何も できなかった …
 っ しなかった 、ッ 




僕のせい、なんて、
彼は自身を 呪うかのように、口にする。 

つい先ほどまで、
あんなに 怖がっていた 表情が嘘みたいに
淡々と答えていたのに。

時々 言葉は詰まりつつも、
話すって決めたのであろう あのタイミング から、
しょにだは だいぶ 気を持ち直したようにも
見えたのに。

普段よりも、しっかり話していたのに。

また、ほとけが死んでからのいつも通り' ' ' ' '
戻ってしまった、
いいや、それより酷くなって。






__ ああ、違う、




 ぜんぶ… …
 ぼくがわるいの ッ … 、! 




本当は、彼は。



 いむくん じゃなくて っ … …
 ぼくが
 しぬはず だったのに っ 、!! 




ずっと、ずっと
これだけ苦しくて。

さっき落ち着いたように見えたのは、
ちゃんと向き合おう、って
虚勢を張っていただけで。




 ぼくなんて ほんとに あのとき 
 しんじゃって いれば
 よかった ッ 、!!! 




人間、気合いだけじゃ無理だ。

ただでさえ 
体が疲れて 苦しんでいるときなんて、
気合いだけじゃ どうにも できないん だから 。

心が苦しんでいるときに、
気合いだけで、なんて
どうにも なるはずがない。



 … …しょうっ!! 




あまりの言葉に 耐えられず、
あにきが叫ぶように声をかけた。

しかし、しょにだは
それが聞こえていないか のように、
「 意味なんて ないやん 」と続ける。



 いむくんにも っ …
 きらわれちゃってるに
 決まっているのに ッ 、!! 




それを聞いて、もう俺も
じっとは していられなかった。

相方なんだから信じろ、とか。

死んだ人の心なんて
わかんないんだから信じてみろ、とか。

そんなんじゃなくて。

だって 俺は そもそも 知っている。

正解を知っている。

そのうえで、
今のしょにだの言葉が 間違えだと言うことも。
  


 … んなわけっ、
 ないやん… … ッ!!!




ほとけは
しょーちゃんに
傷ついてほしくない、と言った。

しょーちゃんの笑顔を見たい、と言った。

しょーちゃんから逃げた、と自身を責めた。

それなのに … … 嫌っている?

そんなわけがないだろう。

嫌いな人のことを、
誰がそこまで大切に思うんだ。

ほとけは、ほとけは。


 

 ほとけはしょにだが
 大好きやから っ …
 守ろうとしたんやろ っ 、!? 




そう言ったとて、
彼は薄い笑みを浮かべるだけ。

諦めたようなそれは、
ほとけが見たいと 望んだ笑顔とは、
似ても似つかない。

もちろん、
俺がいつかは見たいと思っていた
笑顔とも。



 あの時は っ …
 そうやったかもしんないな 、! 




 やけど、ぼくは… …っ、
 しなせちゃったから、ッ … … !!!




 … そのまま逃げちゃったからっ 、 
 卑怯だったからっっ 、




 __ 違うっ 、!!! 




思わずそう、叫んでいた。

確かに、
ほとけが死んだ理由は
しょにだにも あったかもしれない。

でも ほとけは、自らが死んだ後も
しょにだのことが大好きだった。

大好きだった からこそ
自らの死因を隠すしかなくて。

大好きだった からこそ
あの時のことを悔やんで。

それでも、
彼には笑っていて ほしいって。

生きていて って。

ほとけが しょにだに対して、
嫌な言葉をこぼしたことは
一度もなかった。

ほとけが しょにだに対して綴ったことは、
常に愛に溢れていた。

だから … だから、大好きに決まっているのに。






それなのに、伝えられない。

ほとけは好きって言ってたよ、
ほとけが しょにだを嫌いになる、なんて
ありえるはずが ないよ 。 

そうは思っても、
どう伝えれば良いのか。

幽霊なんて、
言葉だけ言っても 馬鹿馬鹿しい だけだ。




 なんで ッ 、… そんなことが 
 言い切れるん っ 、??




 … そりゃ っ 、
 ぼくだって そう、
 信じて いたいけど 、… ッ 




 もう、いむくんはっ、… …!!! 




思った。

いくら信じてもらえなくても、
俺は伝えなくては いけないって。

ほとけが俺に望んだこと、
託したこと、
ちゃんと やらないで どうするんだ。

信じて もらえないだろうから
伝えられないなんて、馬鹿みたいだ。

ほとけは、
声すら出せなくて、筆談しかできなくて。

伝えること自体は 何一つ不自由ない 俺が、
一体 何を言っている。

伝えるための道具なら、
充分すぎるくらい 俺は持ち合わせているだろう。

思いっきり、息を吸う。



 … っ しょにだ 、 




 話したい … っ話さなきゃ
 いけへんことがある ッ 、… 




 一旦 外で、二人で話させてほしい 




彼は、
涙を流したまま
数秒悩んでから、微かに頷いた。





















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