第8話

# 08
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2026/05/20 21:00 更新

 時間は、思っていたよりも簡単に過ぎていった。

 一週間。

 二週間。

 一ヶ月。

 その間に、季節は少しだけ進んで、

 体育館に入る空気も、わずかに変わった。

 でも。



小川 智大 .
 、…いない、 





 その事実だけは、何も変わらなかった。

 俺は、無意識に視線を巡らせて、

 そして毎回同じ結論に辿り着く。

 どこにもいない。




 智大、ナイス!! 

小川 智大 .
 っす、 





 短く返す。

 レシーブは、相変わらず完璧だった。

 むしろ前より安定している、

 とコーチに言われたほど。




 最近、調子いいな、集中力も上がってる 

小川 智大 .
 、…どうも 




 そう答えながら、内心で小さく笑う。




小川 智大 .
 ( 集中? 


 

 違う。

 ただ、余計なことを考えないようにしてるだけ。

 考えた瞬間、頭に浮かぶのは決まっている。

 あの背中。

 あのフォーム。

 あの、当たり前みたいにそこにいた存在。




小川 智大 .
 、…ちっ、 




 小さく舌打ちが漏れる。

 その瞬間、ボールが少しだけ大きく返った。



小川 智大 .
 あ、ごめん、 

 全然大丈夫だよ~ 



 俺が軽く謝り、セッターが即答する。



 
 ミスじゃない。

 今のは、自分の問題だ。

 まだ、引きずっている。

 認めたくない事実が、じわじわと滲んでくる。














 その日の練習終わり。

 ロッカールームのテレビで、

 スポーツニュースが流れていた。

 何気なく、視線が向く。




 ___、続いて、男子バレーボール界の話題です 






 反射的に、足が止まった。




 アンダーカテゴリー日本代表として活躍していた_____、 





 名前が呼ばれる。

 その瞬間、空気が一気に冷えた気がした。

 画面には、見慣れた姿。

 過去の試合映像。

 スローモーションのジャンプ。

 決まるスパイク。

 全部、知ってる。

 全部、何度も見てきた。






 現在は怪我の影響で、長期離脱中。復帰は未定とされています。 






 ___、それだけ。

 それだけだった。

 ただ淡々と継げられる、耳の痛い事実。




小川 智大 .
 、…は? 




 思わず、声が漏れる。

 隣にいたチームメイトが振り向く。





 どうした? 

小川 智大 .
 いや、…… 




 言葉が続かない。

 画面はもう次の話題に移っている。

 笑顔のアナウンサー。

 別の選手の特集。

 何事もなかったみたいに、世界が進んでいく。





小川 智大 .
 、…それだけ?笑 



 誰にも聞こえない声で呟く。







 怪我。

 長期離脱。

 復帰未定。

 それで終わり?理由は?

 どこが悪いのか。

 どれくらい重いのか。

 戻ってくる気はあるのか。

 何も分からない。

 何も、言われていない。







小川 智大 .
 ふざけんな、 




 喉の奥で、何かがひっかかる。

 最初は、ただの違和感だった。

 でもそれは、時間と一緒に形を変えていく。

 ざらつきが、

 棘になって、

 少しずつ、内側を削っていく。




 智大ー? 

小川 智大 .
 、…ごめん、なんでもない 





 振り払うように答える。









 でも、もう分かっていた。

 これはもう、待ってる側の感情じゃない。

 置いていかれた側の感情だ。











 ロッカーに手をかける。

 勢いよく閉めるつもりはなかった。

 でも、思ったより強く音が響いた。

 バンッ、と。





小川 智大 .
 、…逃げたんすか、笑 





 ぽつりと落ちた言葉は、

 自分でも驚くくらい、冷たかった。

 あんなに追いかけていたのに。

 あんなに、届きたかったのに。

 理由も言わず、何も残さず、

 ただ、消えるなんて。




小川 智大 .
 、…ださっ、 



 小さく吐き捨てる。

 その瞬間、胸の奥がじくりと痛んだ。

 でも、その痛みすら。

 もう、どうでもよかった。





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