第28話

第28話 縁故
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2026/03/07 09:00 更新
部活動も終わりに差し掛かってきたそのとき、爽上先生は楽譜を見つつその意味を探していた。

完璧とも言える書き込み、他のパートへの配慮も記されていて、もはや顧問になって欲しいとまで願う。
爽上 春馬さわじょう はるま
うん。大丈夫。
ここの強弱って、フォルテで吹く?
メゾフォルテもあるけど...
藤天 表裏ふじあま ひょうり
いえ!フォルテで吹きます!
爽上 春馬さわじょう はるま
了解。
それじゃあよろしくね。

楽譜を藤天に返した。
だけど、彼はまだ立ったまま、微笑みながら言葉を紡いだ。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
あ、先生最近寝不足ですか?
爽上 春馬さわじょう はるま
....え?
急にどうしたの?w
藤天 表裏ふじあま ひょうり
いえいえ!
授業中、何回も顔洗いに行ってましたから!
爽上 春馬さわじょう はるま
.....んー。
藤天の席から廊下って見えるんだ。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
1番前の角なので。
首を伸ばせば簡単に...!
爽上 春馬さわじょう はるま
そうなんだw
寝不足といえば寝不足かな。
仕事が終わらなくてね。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
いつもご苦労さまです!
寝不足なときは、音楽を流して少し強引にベットに入るとよく眠れますよ。
爽上 春馬さわじょう はるま
.....ん?

曖昧な返事を返して立ち上がる。
音楽室の出口に向かうが、藤天の声で足は止まった。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
先生の家、誰か居るんですか。

言い切るようなその口調、俺は思わず振り返る。
爽上 春馬さわじょう はるま
なんで?
藤天 表裏ふじあま ひょうり
.....ww。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
別に、なんとなくですよ!

彼はいつも笑っている。
そのいつも通りの顔を見て、俺は心から安心した。
まさか、教師と生徒が同居だなんて、学校側にバレたらめんどくさくなる。

だが、どういうことだろう。
この会話で、彼は何を感じたんだろう。
昼休みといい、今といい、なんかバレてそうな気がする...

相談案件だ。
爽上 春馬さわじょう はるま
それじゃあ俺帰るから。
ミーティングやって帰っていいから。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
サボりですか?w
爽上 春馬さわじょう はるま
いーや、有給。
爽上 春馬さわじょう はるま
それじゃあね。

爽上先生が音楽室から出て行って、残った姿はただ一人。
誰にも聞こえるはずない声で、静かに手を振り呟くのだった。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
それでは、また明日。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
今日は寝れるといいですね。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
せんせ。


急いで車に乗り込んだ。

仕事を家でやるために、パソコンを取りに職員室に向かった。
そして、パソコンを回収し何事もなく家に帰るはずだったのだが...
逢倉先生から思優がいないとの情報を聞いた。
杉原も居ないらしいが、部室の机に体調が悪いので帰ります、とのメモ書きがあったらしい。

問題は....
爽上 春馬さわじょう はるま
.....ッ。

家のドアを勢いよく開けてリビングに向かう。
もちろんリビングには人影なんてものは無い、そして思優の自室に向かう。
鍵がかかっていた。
爽上 春馬さわじょう はるま
思優ッ!?
爽上 春馬さわじょう はるま
居るなら鍵を開けてくれ!

返事が無い。
ドアを蹴破ろうかと悩んだが、そんな考えいらなかったみたいだ。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
ただいま帰りました。
....って、何やってるんですか。

玄関の方に急いで駆け寄る。
勢いよく肩を掴んでは何してたんだよと問い詰めるのだが、するりと交わされリビングまで歩いていく。
爽上 春馬さわじょう はるま
説明してよ。
部活の途中でいなくなったって。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
あぁ、そのことですか。
杉原先輩がメモを残していそうだったので大丈夫かなと思って...帰ってきました。
爽上 春馬さわじょう はるま
あのさぁ....
青鷺 思優あおさぎ しゆん
真面目な先輩ですからね。
俺はいいかなって。

夕飯までは関わることはほとんどない。

お互いのプライバシーは守り、知られたくないことは元々共有していた。
そして、思優が提示したもの、それは「部屋の中には入らない」こと。

緊急事態は仕方ない。
こないだ、思優が寝ていないと分かり、体調がやばそうだったので俺も思優の部屋に入ることになった。
だが、思優がわざわざ条件に提示するほど、部屋の中に変な物は無かったはずだ。
根本的な問題を思い返して、夕飯の時間を待っていた。
思ったよりも、呼ばれる時間が早かった。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
どうぞ召し上がれ。
爽上 春馬さわじょう はるま
....ありがとう。

無言でそのまま食べ続ける。

いつも思優の料理は美味しい。
なぜこんなにも、凝ったものが作れるのかと疑問になるほど。
でも、聞くまでもなかった。

そして、食べ終わったら思優はゲームに移った。
単純作業を繰り返すゲーム、どうやら考え事をするみたいだ。
ジュースを飲みつつ、その画面に注目する。
嫌というほど、見慣れたゲームだ

ふと、机の上の思優のスマホが目に入った。
ゲームに夢中...いや、考えに夢中になっている思優に気づく素振りなんてものはない。
一つの通知音。
俺にしか気がついていない事実。

仕方ないほど、目に入る。



"おい、今度はこっちに協力してくれ。"

"早く寝ろ。...顧問の気持ちも考えろよ。"








誰かなんて、一目瞭然で。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
....
爽上 春馬さわじょう はるま
思優、着信来てるよ。
少し視線を逸らしてまた戻る。
仕方ないから届けてあげることにした。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
聞きたいですか?
実にくだらない、ただの子供の戯言を。
爽上 春馬さわじょう はるま
.....えっ?

思わず落としそうになった。
だが、それ以上に気になるのは、思優が自分から話そうとしてくれたことだ。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
.....。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
聞きたくないなら、構いませんが。
爽上 春馬さわじょう はるま
.....ww。
聞くよ、全然。
爽上 春馬さわじょう はるま
聞かせてよ。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
変な期待なんて、しないでくださいね。
俺は、まだ何も分かってません。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
春馬先生が考えるほど、特別な生徒でも無いのですから。




幼稚園の頃、もう記憶も浅はかな時代。
俺らはとある場所で出会った。

今日杉原先輩と行った場所、何の変哲もない川の前だ。
一人で静かに泣いていた。
幼少期の俺は、そんなことが日常だった。

まだ日が出てない明け方、まだ真っ暗な夜道に一人、俺の前で止まる影があったんだ。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
.....君、僕のこと知ってるよね?
何回もさ、僕の前を通ってた。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
.....
青鷺 思優あおさぎ しゆん
なんの用かな?
僕は一人が好きなんだよ。
用がないなら、早く家に帰ったほうが良いと思うけど...
藤天 表裏ふじあま ひょうり
お前、家族は?
青鷺 思優あおさぎ しゆん
いるよ。
だけどまだ寝ている。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
......

幼いながらの俺は、なんて酷いやつなんだって思った。
何も笑わないし、ただその場に立っているだけ。
早く帰って時間を有意義に使ってみろ...そんなことすら脳裏によぎって。

でも、全てを考えることが出来ないほど、俺の思考は浅すぎたんだ。
藤天 表裏ふじあま ひょうり
俺の名前は藤天表裏。
お前に聞きたいことがある。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
....あはは。
僕は青鷺だよ。よろしくね。

青鷺思優は、丁寧にお辞儀した。
相手の目を見て、微笑みながら。


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