第4話

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2026/07/12 06:38 更新

「ちがッ、俺やってないッ」



 ローレン・イロアス少年は焦っていた。

 数分前まで、
砂場で一人で遊ぶことに没頭していたはずなのに。
今現在彼は自身を囲む
五名中三名の園児に責め立てられている。

 もちろんその他二名とは、
手を繋いだあなた少女と刀也少年のことである。



「ローレンくん早く謝って!!」
「だから俺じゃな……」
「早く、早く!!」
「ぇ、う……」



 ローレン少年には話す隙も与えず、
園児たちは早く謝れと口々に急かす。
彼らには、瞳に薄い水膜を浮かべる
ローレン少年の様子に目を留めていなかった。



「ちょっとどうしたの!?」
「ぁ、せんせ……」




 はな組の担任が騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきた。
それを見てほんの少しだけ安心したローレン少年は、
鼻を啜り事情を説明しようとする。



「俺──」
「ローレンくんが私のお城壊したの!!」



 しかしそれを遮って話し始めたのは、
ローレン少年に砂のお城を壊されたと証言する女児。



 その瞬間、
周りの園児たちも我先にと口を開く。
まるで、彼一人を犯人に仕立てあげるように。

 それを聞いた先生はしばらくの間考えると、
 


「ローレンくん、お友達にごめんなさいして?」



 ローレン少年に謝るように催促する。



 何故彼女がローレン少年の意見を聞かないのか、
疑問に思うだろう。

 民主主義のこの世の中で多数の意見を信じることは、
あながち間違いではない。
しかし、
彼女は無意識の先入観によって
判断を間違えてしまったのだ。

 大人なのに、と思うかもしれないが
それが人間の汚い部分だ。
それでも彼女はなるべく平等であろうとはしていた。
その証拠に、声を荒らげて叱ることなく、
ローレン少年の背中をさすって答えを待っている。

 そんなことをされては、
幼子でも自分が謝らなくてはいけないと
嫌でも察してしまうだろう。




「……ごめ、」




 拳を力いっぱい握りしめ、
俯きながら謝罪の言葉を口にしようとした刹那、



「待って先生」



 音楽の女神、ミューズの祝福を
一身に受けたような女の声が響いた。



 バッ、と弾かれたように顔を上げた
ローレン少年の目の前には、
形の良い眉をキュッと顰めて「不機嫌です」と
言い張るような顔をした、
それはそれはかわゆいおなごが立っていた。

 勿論、あなた少女である。



「あなたちゃん? どうしたの?」



「その子何もしてないわよ」
「私、見ていたもの」




 先生の問いかけに、
彼女はさも当然と言ったように答えた。

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