編入してから、1週間が経った。
教室では、ゆきちゃんとうとくん、しのくん、りゅうがくんの5人で過ごすことがほとんどで、お昼ご飯もいつも一緒に食べている。
放課後は一緒に宿題をしたり、教室に残って話したり。
昨日は学校にあるショッピングエリアでスイーツを食べに行った。
たろさんは、すれ違えば挨拶をしてくれるようになったし、嫌な顔せず接してくれるようになった。
穏やかで楽しい毎日を過ごしているけど……1つだけ問題があった。
それは、まだ__えっちゃんに会えていないこと。
なんだかんだいっても、そのうち会えるだろうと思っていた。
一応この学園の敷地内にいるわけだし、食堂とか買い物エリアとか、全学年が使う施設もあるから。
なのに……えっちゃんらしき人とは遭遇しない。
それどころか、えっちゃんの情報もまったく得られていなかった。
どうすることもできないし、えっちゃんに見つけてもらうのを待つしかなくて歯がゆい。
えっちゃんに会いたいのに、私は身動きが取れずにいた。
次は体育の授業なので、ゆきちゃんに「うん!」と返事をして更衣室の前で皆と別れる。
Sクラスは人数が少ないため、体育はAクラスと合同でするそう。
女子更衣室で体操服に着替えている間、こそこそと話す声が耳に入った。
な、なんだか、すごく睨まれている気が……。
背中に感じる視線に、身を縮こめる。
あ、あはは……すごい言われよう……。
私が可愛くないのは事実だから、嫌われても仕方ないのかな……。
本当は、クラスの女の子達とも仲良くしたいんだけどなぁ……。
肩を落として、更衣室を出る。
いつか女の子の友達が、できますように……!
そう心の中で願って、体育館へと急いだ。
今日は、スポーツ測定をするらしい。
男女で分かれて4人の班、か……。
女の子の知り合い、1人もいないのにっ……。
どうしようかと思っていると、うとくんが心配して言ってくれた。
うとくんに迷惑をかけるわけにはいかないっ……。
ゆきちゃんが平然とそんなことを言うから、苦笑いを浮かべた。
ゆきちゃんは本気でしそうだから怖いっ……。
私はゆきちゃん達と離れ、恐る恐る女の子の集まりの方へと近づく。
が、頑張って話しかけるぞっ……!
そう意気込んだ時、3人組の女の子達に声をかけられた。
えっ……!
まさか、女の子達の方から声をかけてもらえるなんてっ……!
そう言って微笑んでくれる彼女達が、女神に見えた。
これで、一件落着……。
私は班を組めたことに安心して、彼女達がほくそ笑んでいることに気づかなかった。
まず最初は、50m走か……。
グラウンドに移動して、班の女の子達と前半後半を決める。
私は後半になり、前に走った女の子の記録をしっかりと書いた。
ペアの女の子に容姿を預け、位置に着く。
隣のレーンには、同じ班のもう1人の女の子が。
先生の号令が響いて、足を一歩踏み出した。
隣から聞こえた笑い声。
まずいっ……。
私の足を引っかけるように、隣の女の子の足が前に出てきた。
わざととしか思えない行為に、悲しくなる。
やっぱり、女の子達から嫌われてるのかな……。
まさか足をかけられると思っていなくて、私はまんまと引っかかってしまった。
勢いをつけて走り出したせいで、結構なスピードで前に倒れる。
反応が遅れていたら、ケガしてたかも……よかった。
よいしょ、っと……。
即座に手を前に出し、転ばないように地面を押した。
飛び込み前転のような形で、転ぶのを回避する。
隣の女の子から、そんな声が漏れたのが聞こえた。
周りに立っていた子達も、呆然とこっちを見ている。
そ、そうだよね……急に1回転した人みたいに思われたかも……は、恥ずかしいっ……。
先生も、目を見開いて私の方を見ていた。
ぺこりと頭を下げると、先生ははっとした表情をしてから、首を縦に振ってくれた。
よかった……。
気を取り直して、再び位置に着く。
こそこそと遠くで何か話す声が聞こえる。
ま、また悪目立ち……ますます友達ができなくなりそうだ……。
え?
ゆきちゃん?
離れた所から、ゆきちゃんの怒鳴り声が。
私に足をかけた女の子と、その友達が顔を真っ青にしている。
もしかして、さっきの見てたのかな……?
怯えている姿は可哀想だけど、これ以上は不正行為されないだろうと少し安心した。
いつの間にか、女子の方に来ているうとくんが声援を送ってくれる。
しのくんとりゅうがくんは相変わらずだ……あはは……。
でも、足には少しだけ自信があった。
昔から、逃げ足は誰よりも速いと言われていたから。
先生の号令と同時に、走り出す。
風を切るイメージで、短い50mという距離を駆け抜けた。
先生が驚いた表情で言った。
前は7.0だったのに……。
若干ショックを受けながら、ペアの女の子に伝えに行く。
え?
ど、どうして敬語なの……?
目を見開いてこっちを見ているけど……一体、どうしたんだろう……?
不思議に思ったけれど、次の種目まで時間があるからゆきちゃん達の方へ駆け寄る。
さっきはゆきちゃんが注意してくれて助かったし、お礼を言っておきたかった。
やっぱり見てたんだっ……で、でも、ボコるなんて絶対ダメ……!
手を広げて、平気だよとアピール。
もしかしたら、何か事情があったかもしれないし、誰かに何か言われたのかもしれないし……。
ゆきちゃんは困ったように言って笑った。
後ろにいたうとくんが、そう言って苦笑いをした。
え?
驚いた表情で聞いてくるうとくんに、首を横に振る。
平均がわからないからなんとも言えないけど、逃げ足が速いだけだと思う。
しのくんが、ぼそりと呟いた。
そういえば、皆は何秒だったんだろう?
え……!
6秒台……!
うとくんはそう言って、ははっと笑った。
その身長って……遠回しにチビッ子って言われてる?
し、身長、気にしてるのにっ……。
こくりと頷いて、皆で体育館へ移動した。
解散になって、更衣室で制服に着替える。
着替え終わり更衣室を出ると、同じく制服に着替えたりゅうがくんが男子更衣室の前に立っていた。
ゆきちゃんとうとくんは測定が長引いているみたいだったからまだだろうけど、りゅうがくんが1人なのは珍しい。
しのくんも長引いてるのかな……?
……って、あれ?
マスクをしているけど……あそこに立っているのは、りゅうがくんじゃなくてしのくんだ。
いつもマスクをしているのはりゅうがくんの方。
それなのに……どうしてだろう?
私はしのくんに近づいて、声をかけた。
そう言って、ふんっと顔を背けたしのくん。
気になっていたことを聞いた私に、鬱陶しそうにしながらも答えてくれたしのくん。
でも、なぜか目を大きく見開き、「何言ってるんだこいつ」とでもいわんばかりの視線を向けた。
私、なんか変なこと聞いたかな……?
どうしてそんな顔をされるのかわからず、首をかしげる。
しのくんがそんな私を見ながら、驚愕の表情をしたまま手を掴んできた。
わっ……!
強引に引っ張られ、近くの物陰に連れてこられる。
しのくんは私を壁に押しつけて、口を開いた。
そう聞いてくるしのくんの顔はひどく焦っているみたいで、まるで宇宙人を見るような目をしていた。
私の答えに、納得いかない様子のしのくん。
双子だからって、全部同じではないでしょう……?
それにしても、いつから入れ替わっていたんだろう?
50m走の時はそのままだったと思うけど……。
そんな大胆に入れ替わっていたら、さすがに先生にもバレてたんじゃないかな?
うとくん達だって、きっと気づいてたと思うよ……!
不思議に思い、じっとしのくんを見つめ返す。
しのくんは、居心地が悪そうに視線を逸らした後、私から手を離した。
そう言って、更衣室の方に行ってしまう。
けれどすぐに、制服に着替え終わったりゅうがくんを連れて戻ってきた。
しかも、今度はいつもどおり、マスクをりゅうがくんがつけていた。
しのくんと、りゅうがくんがってこと……?
私は、指をさしながら名前を呼んだ。
2人は、私の答えにこれでもかと目を見開く。
驚愕している様子に、驚きたいのはこちらだった。
そう呟いたりゅうがくんの声が、なぜだか震えている。
焦った様子で聞いてくるしのくんに、返答に困ってしまった。
その質問自体がおかしい気が……。
ぼそっと、悲しそうに吐き出されたりゅうがくんの声。
そういえば……以前、そんなことを言っていた気がする。
出会ったばかりの頃は、私もマスクがなかったら見分けがつかなかった。
そのくらい似ているけど、よく見ると全然違う。
いつも食堂で同じメニューを食べているし、口癖も一緒だし、似ている部分は多いと思う。
だからって、同じ人間ではない。
2人には、それぞれの良さがあると私は勝手に思っていた。
そんな2人が、私は友達としてとても好き。
ってしのくんとりゅうがくんの方は、私のこと嫌いみたいだけど……あはは……。
なぜか呆然としている2人は、無言のままただぼうっと見つめてくる。
大丈夫……?と続けて聞こうとした時、離れた所から声がした。
紛れもないゆきちゃんの声に振り返ると、そこには測定が終わったのか制服に着替えたゆきちゃんの姿が。
ゆきちゃんに、強引に教室の方へと手を引かれる。
振り返って2人にも声をかけると、2人揃ってこくりと頷いた。
あれ?
2人が、素直だ……。
普段なら、『指図すんな!』とか言われるのに……。
不思議に思いながらも、ゆきちゃんに連れられるまま教室に戻ったのだった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。