第17話

双子の見分け方
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2025/05/15 15:00 更新
編入してから、1週間が経った。
教室では、ゆきちゃんとうとくん、しのくん、りゅうがくんの5人で過ごすことがほとんどで、お昼ご飯もいつも一緒に食べている。
放課後は一緒に宿題をしたり、教室に残って話したり。

昨日は学校にあるショッピングエリアでスイーツを食べに行った。
たろさんは、すれ違えば挨拶をしてくれるようになったし、嫌な顔せず接してくれるようになった。
穏やかで楽しい毎日を過ごしているけど……1つだけ問題があった。
それは、まだ__えっちゃんに会えていないこと。
なんだかんだいっても、そのうち会えるだろうと思っていた。
一応この学園の敷地内にいるわけだし、食堂とか買い物エリアとか、全学年が使う施設もあるから。
なのに……えっちゃんらしき人とはそうぐうしない。
それどころか、えっちゃんの情報もまったく得られていなかった。
どうすることもできないし、えっちゃんに見つけてもらうのを待つしかなくて歯がゆい。
えっちゃんに会いたいのに、私は身動きが取れずにいた。
早乙女ゆき
あなた、体育館で待ってるからな。
次は体育の授業なので、ゆきちゃんに「うん!」と返事をして更衣室の前で皆と別れる。
Sクラスは人数が少ないため、体育はAクラスと合同でするそう。
女子更衣室で体操服に着替えている間、こそこそと話す声が耳に入った。
女子生徒(使い回し)
姫川、だっけ?
ほんと目障り~。
女子生徒(使い回し)
うとくん達って、勘違いされるから特定の女の子とは仲良くしない~って言ってたのに、なんであいつとは仲良くしてんの?
な、なんだか、すごく睨まれている気が……。
背中に感じる視線に、身を縮こめる。
女子生徒(使い回し)
あんな地味な見た目して、男好きだよね~。
女子生徒(使い回し)
うとくん達も物珍しくて仲良くしてるだけでしょ。
女子生徒(使い回し)
だよね~。
こんなブス、本気で相手になんてしないって。
あ、あはは……すごい言われよう……。
私が可愛くないのは事実だから、嫌われても仕方ないのかな……。
本当は、クラスの女の子達とも仲良くしたいんだけどなぁ……。
肩を落として、更衣室を出る。
いつか女の子の友達が、できますように……!
そう心の中で願って、体育館へと急いだ。
体育教師
それじゃあ、男女それぞれ4人の班を作れ。
2対2で、交互に測定するように。
今日は、スポーツ測定をするらしい。
男女で分かれて4人の班、か……。
女の子の知り合い、1人もいないのにっ……。
滝沢うと
あなた、女の子と話したことある?
俺から頼んであげようか?
どうしようかと思っていると、うとくんが心配して言ってくれた。
姫川あなた
う、ううん、大丈夫だよ!
うとくんに迷惑をかけるわけにはいかないっ……。
早乙女ゆき
つーか、あなたは俺と組めばいい。
ゆきちゃんが平然とそんなことを言うから、苦笑いを浮かべた。
姫川あなた
そ、それは先生に怒られちゃうよ……
早乙女ゆき
俺が黙らせる。
姫川あなた
だ、ダメだよ……
ゆきちゃんは本気でしそうだから怖いっ……。
私はゆきちゃん達と離れ、恐る恐る女の子の集まりの方へと近づく。
が、頑張って話しかけるぞっ……!
そう意気込んだ時、3人組の女の子達に声をかけられた。
女子生徒(使い回し)
姫川さーん、あたし達と組もうよ。
えっ……!
姫川あなた
い、いいの?
まさか、女の子達の方から声をかけてもらえるなんてっ……!
女子生徒(使い回し)
もちろん!
女子生徒(使い回し)
よろしくね~。
そう言って微笑んでくれる彼女達が、女神に見えた。
姫川あなた
ありがとうっ……!
これで、一件落着……。
私は班を組めたことに安心して、彼女達がほくそ笑んでいることに気づかなかった。
まず最初は、50m走か……。
グラウンドに移動して、班の女の子達と前半後半を決める。
私は後半になり、前に走った女の子の記録をしっかりと書いた。
女子生徒(使い回し)
交代!
姫川さん頑張って!
姫川あなた
うん!
ありがとうっ。
ペアの女の子に容姿を預け、位置に着く。
隣のレーンには、同じ班のもう1人の女の子が。
先生の号令が響いて、足を一歩踏み出した。
女子生徒(使い回し)
フッ。
隣から聞こえた笑い声。
姫川あなた
あ……
まずいっ……。
私の足を引っかけるように、隣の女の子の足が前に出てきた。
わざととしか思えない行為に、悲しくなる。
やっぱり、女の子達から嫌われてるのかな……。
まさか足をかけられると思っていなくて、私はまんまと引っかかってしまった。
勢いをつけて走り出したせいで、結構なスピードで前に倒れる。
反応が遅れていたら、ケガしてたかも……よかった。
よいしょ、っと……。
即座に手を前に出し、転ばないように地面を押した。
飛び込み前転のような形で、転ぶのを回避する。
女子生徒(使い回し)
……え。
隣の女の子から、そんな声が漏れたのが聞こえた。
周りに立っていた子達も、ぼうぜんとこっちを見ている。
そ、そうだよね……急に1回転した人みたいに思われたかも……は、恥ずかしいっ……。
先生も、目を見開いて私の方を見ていた。
姫川あなた
す、すみません……もう一度やり直しさせてもらっていいですか……?
ぺこりと頭を下げると、先生ははっとした表情をしてから、首を縦に振ってくれた。
体育教師
お、おお……
よかった……。
気を取り直して、再び位置に着く。
女子生徒(使い回し)
今の動き、何?
女子生徒(使い回し)
何あいつ……運動神経いいの?
女子生徒(使い回し)
あんな地味な見た目のくせに……?
こそこそと遠くで何か話す声が聞こえる。
ま、また悪目立ち……ますます友達ができなくなりそうだ……。
早乙女ゆき
おい、てめーら。
次に余計なことしたら殺すからな!!
え?

ゆきちゃん?
離れた所から、ゆきちゃんの怒鳴り声が。
女子生徒(使い回し)
……ひぃっ……!
私に足をかけた女の子と、その友達が顔を真っ青にしている。
もしかして、さっきの見てたのかな……?
怯えている姿は可哀想だけど、これ以上は不正行為されないだろうと少し安心した。
滝沢うと
あなた、ファイト~!
いつの間にか、女子の方に来ているうとくんが声援を送ってくれる。
天城しの
ふっ、最低記録更新とかして。
天城りゅうが
あいつ絶対に足遅いだろうな。
……いてっ!!
早乙女ゆき
それ以上なんか言ったら、お前の足、走れなくしてやるぞ。
しのくんとりゅうがくんは相変わらずだ……あはは……。
でも、足には少しだけ自信があった。
昔から、逃げ足は誰よりも速いと言われていたから。
体育教師
位置に着いて、よーい……ドン!
先生の号令と同時に、走り出す。
風を切るイメージで、短い50mという距離を駆け抜けた。
体育教師
姫川、タイム……7.2秒。
先生が驚いた表情で言った。
姫川あなた
あれ、タイム落ちちゃった……
前は7.0だったのに……。
若干ショックを受けながら、ペアの女の子に伝えに行く。
姫川あなた
あの、50m7.2秒です。
女子生徒(使い回し)
……は、はい……
え?

ど、どうして敬語なの……?
目を見開いてこっちを見ているけど……一体、どうしたんだろう……?
不思議に思ったけれど、次の種目まで時間があるからゆきちゃん達の方へ駆け寄る。
姫川あなた
ゆきちゃん、見ててくれてありがとうっ……
さっきはゆきちゃんが注意してくれて助かったし、お礼を言っておきたかった。
早乙女ゆき
大丈夫だったか?
つーか、足引っかけた女達、俺がボコッてやる。
やっぱり見てたんだっ……で、でも、ボコるなんて絶対ダメ……!
姫川あなた
そ、そんなのいいよ……!
それに、わざとじゃなかったかもしれないし……
早乙女ゆき
いや、わざとに決まってんだろ?
姫川あなた
で、でもいいの、ケガしてないから。
手を広げて、平気だよとアピール。
もしかしたら、何か事情があったかもしれないし、誰かに何か言われたのかもしれないし……。
早乙女ゆき
あなたは、どこまでもお人好しだな。
ゆきちゃんは困ったように言って笑った。
滝沢うと
ほんとほんと。
女の子ってやっぱり怖いなぁ。
後ろにいたうとくんが、そう言って苦笑いをした。
滝沢うと
でも、びっくりした。
あなたって運動神経もよかったのか?
え?
驚いた表情で聞いてくるうとくんに、首を横に振る。
姫川あなた
そんなことないよ。
平均がわからないからなんとも言えないけど、逃げ足が速いだけだと思う。
天城しの
7.2とか、俺らより速いじゃん……
しのくんが、ぼそりと呟いた。
そういえば、皆は何秒だったんだろう?
姫川あなた
うとくんはタイムどうだった?
滝沢うと
俺は6.6秒。
早乙女の方が0.1速かったよ。
え……!

6秒台……!
姫川あなた
2人共すごい……!
滝沢うと
いや、その身長で7秒台を叩き出すあなたの方がおかしいって……ほんと、知れば知るほど不思議な奴。
うとくんはそう言って、ははっと笑った。
その身長って……遠回しにチビッ子って言われてる?
し、身長、気にしてるのにっ……。
早乙女ゆき
あなた、次って体育館だろ?
姫川あなた
うん!
反復横跳びかな?
ゆきちゃん達も?
早乙女ゆき
うん、そう。
一緒に行こ。
こくりと頷いて、皆で体育館へ移動した。
解散になって、更衣室で制服に着替える。
着替え終わり更衣室を出ると、同じく制服に着替えたりゅうがくんが男子更衣室の前に立っていた。
ゆきちゃんとうとくんは測定が長引いているみたいだったからまだだろうけど、りゅうがくんが1人なのは珍しい。
しのくんも長引いてるのかな……?
……って、あれ?
マスクをしているけど……あそこに立っているのは、りゅうがくんじゃなくてしのくんだ。
いつもマスクをしているのはりゅうがくんの方。
それなのに……どうしてだろう?
私はしのくんに近づいて、声をかけた。
姫川あなた
し、しのくん、何してるの?
天城しの
あ?
りゅうがの着替え終わんの待ってるだけだけど。
そう言って、ふんっと顔を背けたしのくん。
姫川あなた
そ、そっか。
あの……どうしてしのくんがマスクつけてるの?
天城しの
これは、測定の時に入れ替わってたから。
……って、は?
気になっていたことを聞いた私に、鬱陶しそうにしながらも答えてくれたしのくん。
でも、なぜか目を大きく見開き、「何言ってるんだこいつ」とでもいわんばかりの視線を向けた。
私、なんか変なこと聞いたかな……?
どうしてそんな顔をされるのかわからず、首をかしげる。
しのくんがそんな私を見ながら、きょうがくの表情をしたまま手を掴んできた。
天城しの
……ちょっと来い。
わっ……!
強引に引っ張られ、近くの物陰に連れてこられる。
しのくんは私を壁に押しつけて、口を開いた。
天城しの
……お前、なんで俺がしのだってわかった?
姫川あなた
え?
天城しの
マスクつけてたのに、なんでわかったんだよ。
そう聞いてくるしのくんの顔はひどく焦っているみたいで、まるで宇宙人を見るような目をしていた。
姫川あなた
だって……雰囲気が……
天城しの
雰囲気?
姫川あなた
声と喋り方も、しのくんのものだったから。
私の答えに、納得いかない様子のしのくん。
天城しの
はあ?
そんなんでわかるわけないだろ!
姫川あなた
わ、わかるよ……だって、しのくんはしのくんだもん。
双子だからって、全部同じではないでしょう……?
それにしても、いつから入れ替わっていたんだろう?

50m走の時はそのままだったと思うけど……。
そんな大胆に入れ替わっていたら、さすがに先生にもバレてたんじゃないかな?
うとくん達だって、きっと気づいてたと思うよ……!
不思議に思い、じっとしのくんを見つめ返す。
しのくんは、居心地が悪そうに視線を逸らした後、私から手を離した。
天城しの
……っ、待ってろ。
そう言って、更衣室の方に行ってしまう。
けれどすぐに、制服に着替え終わったりゅうがくんを連れて戻ってきた。
しかも、今度はいつもどおり、マスクをりゅうがくんがつけていた。
天城しの
どっちがどっちか……わかんのか?
しのくんと、りゅうがくんがってこと……?
私は、指をさしながら名前を呼んだ。
姫川あなた
しのくんと、りゅうがくん。
2人は、私の答えにこれでもかと目を見開く。
驚愕している様子に、驚きたいのはこちらだった。
天城りゅうが
……なん、で……
そう呟いたりゅうがくんの声が、なぜだか震えている。
天城しの
なあ、何を見て判断したんだよ。
なんでわかった?
焦った様子で聞いてくるしのくんに、返答に困ってしまった。
姫川あなた
なんでって言われても……
その質問自体がおかしい気が……。
天城りゅうが
親も、わからないのに……
ぼそっと、悲しそうに吐き出されたりゅうがくんの声。
そういえば……以前、そんなことを言っていた気がする。
姫川あなた
2人共、顔はそっくりだけど……雰囲気とか、身にまとってる空気が全然違うよ。
声も話し方も。
って、私も最近わかるようになったんだけど。
出会ったばかりの頃は、私もマスクがなかったら見分けがつかなかった。
そのくらい似ているけど、よく見ると全然違う。
天城しの
俺とりゅうがが、違う?
姫川あなた
うん。
当たり前だよ。
2人は違う人間なんだから。
いつも食堂で同じメニューを食べているし、口癖も一緒だし、似ている部分は多いと思う。
だからって、同じ人間ではない。
姫川あなた
しのくんにはしのくんの、りゅうがくんにはりゅうがくんの個性があるよ。
2人には、それぞれの良さがあると私は勝手に思っていた。
そんな2人が、私は友達としてとても好き。
ってしのくんとりゅうがくんの方は、私のこと嫌いみたいだけど……あはは……。
なぜか呆然としている2人は、無言のままただぼうっと見つめてくる。
姫川あなた
ふ、2人共、どうしたの……?
大丈夫……?と続けて聞こうとした時、離れた所から声がした。
早乙女ゆき
おい!
クソカス双子!!
紛れもないゆきちゃんの声に振り返ると、そこには測定が終わったのか制服に着替えたゆきちゃんの姿が。
早乙女ゆき
何俺に隠れてあなたのこといじめようとしてんだ……?
本格的に殺されてーのか、お前らは!?
姫川あなた
ち、違うよゆきちゃん!
少し話してただけ!
早乙女ゆき
……ほんとに?
何もされてない?
姫川あなた
うん!
もちろん!
早乙女ゆき
……ちっ。
あなた、戻ろ。
ゆきちゃんに、強引に教室の方へと手を引かれる。
姫川あなた
しのくんとりゅうがくんも戻ろうっ。
振り返って2人にも声をかけると、2人揃ってこくりと頷いた。
天城兄弟
……うん。
あれ?

2人が、素直だ……。
普段なら、『指図すんな!』とか言われるのに……。
不思議に思いながらも、ゆきちゃんに連れられるまま教室に戻ったのだった。

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