リビング 6時30分……
樹奈 side ,
そんな声が聞こえ、目を覚ます。
肩を揺さぶられる感覚がした。
寝ないで、とは忠告されていたものの………
結局眠気に抗えず、ソファーの上で横になっていた。
なんとか言い訳をしようと、 頭を働かせたが
寝起きで、なおかつ私に彼女を納得させられるほどの
語彙が思いつかなかった。
数の圧力ってこういうことを言うんだよね…?
と、起きたばかりの目を擦りながら言う。
そういえば、のあさんはどこだろう。
流石に越してきたばかりで慣れないとはいえ、
彼女の事だ。 寝坊なんてしないはず。
等と考えていると、階段を降りる音が聞こえてきた。
ガチャッ、 というドアノブが回される音。
少し時間を置いて、リビングの扉が開いた。
そこには長いボサボサの髪をしたのあさん。
いつもよりも声が枯れているような、
そうでも無いような。
顔を俯けている彼女の違和感に今ようやく気付いた。
年中無休で半袖を来ている彼女が、
“今日は長袖を着ているようだった。“
やはり新しい環境に慣れていないのだろうか…?
まぁ、そんなものだろう…と、考えるのをやめた。
彼女は私の隣に座り、テーブルに用意されている食事に目を落とした。
私は何故かその話だけ鮮明に覚えている。
きっとのあさんからその出来事を語られたのは数年前だけど、
何故か頭にこびり付いている。 のあさんの顔を見れば
その事を思い出すのもザラにある。
彼女が慌てているのが見て取れる。
褒められる…というか、 可愛い、といわれるのに
慣れていないのだろう。
のあside ,
さっきは慌てちゃったけど……まあ、いいでしょう…
ホームで電車を待つ時間が、どうにも長く感じる。
横で聴こえる会話を聞き流す。
樹奈さんと朱衣さんは同い年の中学2年生で、
クラスも同じ。
私は高校の方に通っていて、同じクラスの人はいない。
強いて言えば、同じ高校なのが琴葉さんだ。
彼女は高校三年生の18歳で、今度成人式があるみたい。
ちなみに大学に進む気はないらしい。
成人式はしっかりとお祝いしないとな、って考えている。
私たちが通っているのは中高一貫校で、
丁度全員同じ学校だったのが馴れ初めの初め。
私達の関係は、これからも続いていくのだろうか?
全員が20歳以上になったら、 お酒を飲んだりして…
昔のことを話したりするのだろうか?
私は_
考え事は、また今度することにしよう。
電車に乗り、 揺られながら学校へ向かう。
この時間が最近は億劫だ。 普通の人なら、
揺られている感覚が心地よく、
母親の腹の中に似ていてリラックスできる…ということもあるそうだが。
私にはその感覚がどうにも分からない。
“親がいない“時間を多く過ごした影響なのか、
母親の腹の中が思い出せる、なんてことは微塵もなかった。
これも “ 慣れ “だろう。
私は多くの慣れを経験してきた。
少なくとも、他の人よりかは。
孤独に慣れ、陰口を言われ慣れ、虐げられ慣れ、
吐き気に慣れ、嘘を吐くのに慣れ、“この姿“に慣れ、
恐怖に慣れて………
あれ?私の過去ってなんだっけ
そんなつまらない事を考えていると、 既に電車は目的地周辺に居るようだ。
電車の到着の声が聞こえる。
あぁ…今日も一日が始まる………けど、
私は大丈夫。
きっと…………大丈夫なはず。
彼女は私と手を繋いだ。 心底嫌な気分では無かったが、
なんだか不思議な感覚だ。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!