第2話

 秘密の交際:千切豹馬 
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2024/05/09 22:11




 ※成人済み







 「日本代表千切豹馬、女性とデート」

 そうデカデカと書かれた週刊雑誌を見つめ、
 居酒屋の個室で大きくため息を付く。



 あなたの下の名前 
 バレないように気をつけてた 
 のに…! 

 御影玲王 
 いやまあいつバレてもおかしくは 
 なかったよな




 そう言って同級生である御影玲王は
 指で机をトントンと叩く。




 世間には公表していないけど
 豹馬とは付き合っている。

 週刊誌に載っている写真は豹馬と
 その向かいに立つ女は間違いなく私で。

 ここのお店もついこの前豹馬と行った。

 つまり身に覚えしかない。



 あなたの下の名前 
 この前仕事帰りに寄ったとこ 
 撮られたっぽい…

 御影玲王 
 あ、千切もうすぐで着くって 

 あなたの下の名前 
 聞いてんのか 

 御影玲王 
 別バレてもよくね 

 あなたの下の名前 
 良くないよ… 




 この週刊誌発売直後
 某SNSはこのことでトレンドがもちきり。

 豹馬の熱烈なファンによって
 相手の女が誰なのかの
 考察が繰り広げられている。

 幸い横顔で私の顔ははっきり写ってなくて
 私だって特定されることは今はないけど。



 千切豹馬 
 よー、お待たせ 

 御影玲王 
 遅いぞお嬢 




 そこに豹馬が合流。

 豹馬は私の隣に腰掛ける。



 千切豹馬 
 何見てんの 

 御影玲王 
 見りゃ分かるだろ 

 千切豹馬 
 「御影玲王が女とデート」? 
 何だそれ初耳だな

 御影玲王 
 眼科行って来いオススメ 
 紹介するぜ




 豹馬が机にあるポテトをつまむ。



 あなたの下の名前 
 ごめんね…気をつけてたんだけど 

 千切豹馬 
 何であなたの下の名前が謝るんだよ 
 別に悪いことしてなくね 




 「不倫とか浮気じゃないんだし」

 と豹馬は首を横に振る。



 あなたの下の名前 
 いやでも… 




 某SNSを開けば
 相変わらずトレンドに千切豹馬の文字。

 豹馬の相手探しも衰えることなく
 日に日に勢いが増していく。



 御影玲王 
 芸能人とかじゃあるまいし、 
 特定されることはないだろ

 あなたの下の名前 
 う、ん… 




 ないと思っていても怖いものは怖い。

 豹馬は美形プロサッカー選手として有名で
 女性のファンがものすごく多い。

 もちろんいわゆるリアコの人もいるわけで
 「千切豹馬は私のもの」
 なんて見かけるのはしょっちゅう。

 いや豹馬は誰のものでもないがな。

 でも、世間に公表してないとはいえ
 豹馬の彼女は私であって。

 むずむずとした感情が胸を蠢く。



 千切豹馬 
 そういやここのご飯 
 美味しかったよな




 豹馬は週刊誌の写真を指す。



 御影玲王 
 え、まじ?教えて 

 千切豹馬 
 送るわ 

 御影玲王 
 助かる 

 あなたの下の名前 
 二人共…… 




 これってこれからどうしようかな
 の対策会議だったんだけど。



 千切豹馬 
 あなたの下の名前の顔これ見えないな 
 この時めっちゃ笑顔で可愛かった 

 あなたの下の名前 
 話逸らそうとしないで 




 豹馬の事務所も
 「プライベートは本人に任せます」
 の一言だけ。

 つまりは見捨てられた。



 あなたの下の名前 
 フォローしろよ! 

 御影玲王 
 キレんなってお嬢のお嬢 

 あなたの下の名前 
 ややこしい呼び方 

 千切豹馬 
 いいなお嬢のお嬢 

 あなたの下の名前 
 よくはない 




 この二人を見ていると
 真面目に悩んでる私が馬鹿らしくなってくる。

 もうこれ私過激派ファンに刺されて死ぬ…?



 千切豹馬 
 何かあったら俺が守るから 
 安心しろよ

 あなたの下の名前 
 ……うん 




 ずるい。

 こんなこと言われたらときめいちゃうじゃん。

 もう何だか大丈夫な気がしてきた。

 だけど彼女探しは酷くなっていくばかり。

 プロアスリートだの女優だの高校の同級生だの

 勝手な考察が広められていった。

 私だと特定されるはずないのに

 段々と精神的に追い詰められて行く気がする。







 そしてそんな私を見兼ねた豹馬が会見で

 「結婚を前提にお付き合いさせてもらっています」

 と話すのはまた別の話。



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