そう言って、笑顔で教室に入る。
そんな、何げない日常。
でも「僕」にはすごく、生きづらく感じる。
学校からの帰り道、思わずそう呟いてしまった。
男の子に生まれたかった。
それが、僕の本心、、、いや、願望だ。
女の子として生まれてきたなら、女の子らしくいなきゃいけないのかな?
一人称を「僕」にすることすら、許されないのかな。
、、、昔は、そんなことも考えることもなかったのになぁ。
昔、、、もう何年前か忘れちゃったけど、男の子になれないなら一人称だけでもって、友達の前で僕って言ってみたことがある。
その時の友達の目は、明らかにおかしなものを見るようなものだった。
僕はその目が怖くって思わず、
なんて言ってしまった。
あれ以来、僕という一人称は使わなくなっていた。
私は女の子なんだから。
女の子らしくいなきゃ。
そう自分に言い聞かせている。
僕は認められない。
私でいなきゃ。
昔のことを思い出したのもあって、目から涙が溢れそうになったとき。
ふいに、誰かに呼び止められて、今にも溢れ出しそうだった涙が一気に引っ込んでしまった。
そう言われ、やっと周りに誰も人がいないのに気づく。
そう。その人、、、?はなんとも言えない不思議な子だった。
まず、見た目。
フードに真っ黒の大きな猫耳がついたパーカーの下に、これまた真っ黒のジャンパースカート。そして首には首輪をつけた、ローファーを履いてること以外はどこか現実離れした格好をしている小学校6年生くらいの女の子。
雰囲気も、なんとなく不思議な感じ。
明らかに自分より年下なのに敬語だし、謎にテンション高いし。
くりっとした目も、どことなくミステリアスな感じがする。
年下だと分かった瞬間、敬語を使うのを放棄して思わず聞いた。
状況がイマイチ飲み込めない。なんだそれ⁇
そう言って瑠乃ちゃん、、、?は僕に背を向けて歩き出した。
不審者かもしれないとか門限過ぎちゃうとか、そんなこともちらっと考えたけどそれ以上にあの子の言動が気になって、とりあえず着いて行くことにした。
着いて行く道中にも謎は深まるばかり。
暗くて見づらいけど明らかに猫みたいなしっぽがぴょんぴょんスキップしながら歩く瑠乃ちゃんの後ろで揺れてるし、まだ夕方だしここめっちゃ都会なのにいつのまにか上空にフクロウが飛んでるし、、、
なんで僕の名前とかを知ってるのか聞こうと思ったけどどうせ聞いたところで答えてくれないだろうしいちいち聞いてたらキリがないのでやめておいた。
いつのまにか目的地に着いたらしい。
そう言って、瑠乃ちゃんは真新しいピンク色の門の前で両手を広げ、僕に笑いかけた。
瑠乃ちゃんはそう言って、門をくぐって行ってしまった。
あった言う間にぽつーんと1人、取り残されてしまった僕。
自分から着いて行ったくせに少し警戒しながら、僕も門をくぐった。
言ってしまってから、人んちかよと自分で自分にツッコミそうになる。
ガチャ
その時、いきなり壁に立てかけられていたドアがなぜか開き、これまたなぜか人が出てきた。
いやまてまてマジで状況が分かんない。
てかすず◯の戸締りかよ!
中から出てきた男の人が慌てたようにこちらを見ていたので不思議に思ってその人の視線を辿ると、無意識に僕の手がスクールバックに付けている防犯ブザーを掴んでいた。
慌てて防犯ブザーから手をパッと話して、その人に向き直る。
一方
ないこたち他の16人のクルーたちは、大きな円卓を囲みながら部屋の壁の大鏡を通してLANたちのやりとりを見ていた。
りうらがそう聞き、いるまが答える。
らんさんはまだ出会って数分しか経っていないにも関わらず、人懐っこい笑みを浮かべて僕に話しかけてきた。
本題とか言う割にアトラクションの話を始めて少し拍子抜けした。
そう。僕は遊園地のアトラクションの中でも絶叫マシンが苦手なのだ。
何年か前に無理やり友達にのっけられて意識が飛びかけた黒歴史がある。
なんとなくそんな気もするけど、言動全てが意味不明だったから聞き流してたのかもしれない。
初対面ってか出会って5分ちょいの何者かも分からない男の人にそんなの話せるはずないって、いつもの僕なら考えただろう。
でも、今は違った。
なんだろう、らんさんには話してもいい気がする。
ほんとに解決してくれたりして、、、なぁんて。
でも、話すだけでも楽になれると思ったから、
と言ってみた。
そう言って、らんさんはニコッと僕に微笑みかけた。
このことは誰にも話したことが無かったから、ホントに少し楽になったかも。
そのイタズラっぽい笑顔を見て、僕なんとなーく嫌な予感を覚えた。
目的地に着くなりらんさんはいきなり僕に黒に布で目隠しをした。
視界が真っ黒でなんにも分かんない僕の手を、いきなりらんさんが掴んで歩き出した。
と言いつつも有無を言わせない強さで僕の手を引く。
優しそうだけど意外と容赦ないのな、、、(?
しばらく歩いた後、僕をすとんと椅子?に座らせた。
なんか椅子の硬い感触が遊園地って感じするなぁ、、、ん?なんかやな予感、、、
そしてやっと目隠しを外してくれた。
そう。想像した通り、僕はジェットコースターの座席にガッチリ固定されていた。
だからか。最初に絶叫マシンが好きか聞いたのって、、、!
そう言うと、らんさんは「クルー以外立ち入り禁止」と書かれたプレートが下がったカラフルな公衆電話みたいなボックスに入っていった。
あれ。なんだ、その、、、クルーの人がアナウンスとかする機械。
そう毒づきつつも、ガラス越しに見えるらんさんが手を振っている様子が見えて、少しワクワクする。
いやでも無理だろ!無理がある‼︎
てかよく見たらレールがずっと真っ直ぐ、、、?
そう。果たしてジェットコースターと呼べるのか怪しいくらいにレールが真っ直ぐなのだ。
ふいにらんさんの軽い掛け声が聞こえる。
すると、がごんっと音を立ててレールが少しずつ動いていた。
そんなことを呟いている間に、ゆっくりコースターが動いた。
コースターって言っても、4人くらいが定員だと思われる小さなトロッコ型のものだ。
せめて落っこちる前だけでも景色を楽しんでおこうと、外側に目をやる。
思ったより高い。普通にユニバのハリドリくらいあるんじゃない?
もうすぐ日が沈みそうで茜色に染まった遊園地は、なんだか幻想的な雰囲気だ。
ホントに夢と希望に溢れた世界みたい。
、、、と。
外側の景色に夢中で全く前を見ていなかったので気づくのが遅れた。
いきなりほぼ垂直落下していった。
いや無理無理無理無理マジで!
怖すぎて声にならない絶叫をらんさんが操作?するレールがかき消す。
ようやく真っ直ぐになったと思ったらいきなりレールがもち上がって1回転する。
と思ったら今度は逆に下がってほぼとかじゃなくて普通に垂直に落下する。
もちろんアレは昔の話。
だけど、今の友達が昔の友達とおんなじだったら、、、って思うと、なかなか話せないんだ。
らんさんは、まるで僕の心を見透かしたかのように言った。
そっか。
僕の中で、なにかが変わった気がした。
ありのままの自分を出せる相手が、ホントの友達、か、、、
さっきから情報量が多すぎて全然内容が頭に入ってこない。
忘れてた。
もう空は真っ暗。
確実に門限はすぎてる。
いろんな意味で終わったと思った。
らんさんはもうすっかりトレードマークになった、人懐っこい笑顔を僕に向けて歩き出した。
その時に僕の頭上に広がる夜空にちらっと見えた、サクラ色の流れ星はきっと一生忘れることはないだろう。
、、、結局、あれは現実の出来事だったのか、僕が作り上げた妄想の世界での出来事だっなのか、今となっては分からない。
でも、1つだけ確かなことがある。
僕が、らんさんに救われたこと。
らんさんのおかげで友達に僕のことを話そうと思えたし、そのおかげで僕を認めてくれる友達に出会えたんだから!
Coe.が虹色がかったサクラ色をした音符の形の宝石を指でいじりながら言う。
ちょうどそのタイミングで、机の上の水晶が光りだした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。