季節はめぐり、夏になった。
夏は、朝を過ぎるとぐっと暑くなる。
蓮は洗濯物を終わらせ、日陰で息を吐いた。
久堂家はあたりはのどかな自然に包まれているから、日差しは強くないけど、さすがに夏本番になるとぐったりしてしまう。
でも、こんな暑さの中でも、中庭から
しゅっ、しゅっ
と音がする。
家の影から様子を見てみると、あなたが木刀で素振りをしていた。
女性的な優美さに加え、男性的な凛々しさを含んだ、まるで欠点のない美貌のこの家の主。
非番の日には、こうして稽古を欠かさず行っている。
冷たい水を用意して中庭に顔を出せば、あなたがちょうど素振りを中断したところだった。
あなたは綺麗すぎる。
見つめられる度にドキドキする。こんなに心臓に悪いものは無い。
顔を覗き込まれ、びっくりしたが、そんなものはお構い無しにあなたは蓮の額に手を当てる。
それから数分後
玄関に立っていたのはこの質素な家にはやや不釣り合いの格好をした男性。
蓮の顔を見た途端、目を輝かせて駆け寄ってきた葉弥に、蓮はあっけに取られる。
あなたの兄と名乗った葉弥は、明るい印象の男性だった。
顔立ちはところどころあなたと似ているけど、雰囲気は男性ではあるが、柔らかい。
玄関で出迎えたゆり江がにこやかに会釈する
そこへ、水浴びを終えたあなたが仏頂面で声をかけた
口を尖らせる葉弥は、あなたより年上のはずなのに若々しく、少年のような仕草も不思議と違和感がない。
来客が来ることはもちろん聞いている。
でもそれがあなたの兄だとは聞いてなかった。
蓮は混乱しながらも、数日前のことを思い出す……
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。