side.桃
誰にも何も言われていないのに、心の中で謝り続ける。
今日出会ったばかりの男に近寄られるだなんて、嫌に決まってるから。
しかも"しごと"で一緒にいなきゃいけない人だし。
(ドンッ!!)
さっきまでとは違う種類の音。
本当に近くに落ちたのだろう。
らんは思わず身体が震える。
…その瞬間。
横の体温が、少しだけ動いた。
こんな時間に起きている事が分かったら説教ものなので、2人とも小声で話す。
まだ眠そうな瞳から察するに、起こしてしまったっぽい。
申し訳ない。
ぽつ、と頭の上から声がする。
まるで普通の事かのように。
俺が気にしすぎないように言ってくれてるのかな。
でも俺は答えられない。
答えたら、自分が弱くなっちゃうような気がして。
らんといるまの間に沈黙が落ちる。
……数秒後。
(ドガンッッ)
殆ど光と音が同じくらいに、近い位置に雷が落ちた。
びくびくしてるのを見られたくなくて、必死に自分の服の裾を掴んで強く握りしめる。
声を出さないように、これ以上弱い所を見せないように。
ごろん、といるまが動く。
俺の方に少しだけ寄ってきて、布団の中で距離が縮まる。
俺がびっくりして顔をあげると、暗闇の中でいるまは俺の目をしっかりと見ていた。
声を出そうとしたけれど喉が詰まって上手く出ない。
頷こうとしたけど首も上手く動かなくて。
俺に出来たのはただ涙目で、暗闇の中いるまの事を見つめることだけだった。
伝わる訳ない。
そう思っていたのに、いるまは真面目な顔のままベッドの中で距離を詰めてきて。
小さな声でそう聞いてきた。
俺は安心できる場所が欲しくて、必死にいるまの袖を引っ張る。
(ぎゅーっ)
とん、とん、と優しく背中を撫でながらいるまは言う。
有り得ない。
いるまと俺は今日出会ったばっかりで。
俺に優しくする理由なんて、彼にはないはずなのに。
なんでこの人はこんなにしてくれるの。
聞けない問いを心の中で繰り返す。
俺はそっと彼の胸に頭を押し付けた。
どく。どく。
一定な心臓の音が響く。
俺の不均一で速すぎる心臓の音が、少しだけ落ち着くような気がした。
彼の腕の中で、小さく呟く。
呟く、と言っても殆ど息のような声だけど。
いるまはそれだけ言ってから、らんのことを包む腕を少しだけ強くした。
それが俺にとってはじめての感覚で、幸せで。
この人には甘えていいのかもしれない。
落ちかけた思考の中で、そうぼんやりと考えて。
俺は初めて雷が降る夜、眠りにつくことができた。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。