第5話

4話
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2026/05/03 22:21 更新
side.桃


桃
…(近くてごめんなさい)

誰にも何も言われていないのに、心の中で謝り続ける。



今日出会ったばかりの男に近寄られるだなんて、嫌に決まってるから。

しかも"しごと"で一緒にいなきゃいけない人だし。





(ドンッ!!)


桃
(びくッッ)



さっきまでとは違う種類の音。

本当に近くに落ちたのだろう。
らんは思わず身体が震える。


…その瞬間。


横の体温が、少しだけ動いた。



桃
、、ごめん、起こしちゃった?
紫
元々起きてた。



こんな時間に起きている事が分かったら説教ものなので、2人とも小声で話す。


まだ眠そうな瞳から察するに、起こしてしまったっぽい。
申し訳ない。






紫
…雷、凄いな。


ぽつ、と頭の上から声がする。

まるで普通の事かのように。
俺が気にしすぎないように言ってくれてるのかな。



でも俺は答えられない。

答えたら、自分が弱くなっちゃうような気がして。

らんといるまの間に沈黙が落ちる。





……数秒後。



(ドガンッッ)



桃
!?(ぎゅぅっ)



殆ど光と音が同じくらいに、近い位置に雷が落ちた。


びくびくしてるのを見られたくなくて、必死に自分の服の裾を掴んで強く握りしめる。


声を出さないように、これ以上弱い所を見せないように。




紫
……



ごろん、といるまが動く。



俺の方に少しだけ寄ってきて、布団の中で距離が縮まる。


俺がびっくりして顔をあげると、暗闇の中でいるまは俺の目をしっかりと見ていた。



紫
…こっち、来る?

桃
……



声を出そうとしたけれど喉が詰まって上手く出ない。

頷こうとしたけど首も上手く動かなくて。



桃
……(うるうる)



俺に出来たのはただ涙目で、暗闇の中いるまの事を見つめることだけだった。



伝わる訳ない。



そう思っていたのに、いるまは真面目な顔のままベッドの中で距離を詰めてきて。


紫
…ぎゅーしていい?



小さな声でそう聞いてきた。

俺は安心できる場所が欲しくて、必死にいるまの袖を引っ張る。




(ぎゅーっ)


紫
五月蝿いよな。(撫)

桃
……っ(堪)

とん、とん、と優しく背中を撫でながらいるまは言う。



有り得ない。




いるまと俺は今日出会ったばっかりで。
俺に優しくする理由なんて、彼にはないはずなのに。




なんでこの人はこんなにしてくれるの。


紫
大丈夫。俺起きとくから。

桃
(迷惑、じゃない?)



聞けない問いを心の中で繰り返す。

俺はそっと彼の胸に頭を押し付けた。



どく。どく。



一定な心臓の音が響く。


俺の不均一で速すぎる心臓の音が、少しだけ落ち着くような気がした。




桃
……あったかい



彼の腕の中で、小さく呟く。



呟く、と言っても殆ど息のような声だけど。


紫
うん。


いるまはそれだけ言ってから、らんのことを包む腕を少しだけ強くした。



それが俺にとってはじめての感覚で、幸せで。






この人には甘えていいのかもしれない。

落ちかけた思考の中で、そうぼんやりと考えて。





俺は初めて雷が降る夜、眠りにつくことができた。


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