第6話

ある日の訪問者 ―市役所職員―
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2026/02/16 17:34 更新
その日も、朝から雨が降っていた。
一度止んだかに思えた空は、午後になってまた灰色に戻っていた。

部屋の中は、昨日と変わらないまま。
窓は閉めきられ、洗濯物も乾かない。
カビくさいにおいと、息の熱だけが、部屋の空気に滲んでいる。

ピンポーン、とチャイムが鳴ったのは、14時過ぎ。

あなた「……誰?」

あなたちゃんがソファからゆっくり立ち上がり、モニターを確認する。

――『〇〇市役所・生活福祉課の者です』

胸に名札をつけた男性が映っていた。
30代くらい。メモ帳を手に、手袋を外そうとしていた。

あなた「……ナナ」

振り返ったあなたちゃんの声は、少しだけかすれていた。
ジェミンはその声を聞いた瞬間、ぴくりと反応した。

ジェミン「……なに?」

あなた「市役所の人。福祉課って……」

言い終わる前に、ジェミンの表情がすっと、冷たく沈んだ。

ジェミン「……なんで?」

あなた「わたし、何も……連絡とか、してないよ」

ジェミン「じゃあ、なんで来るの? “ここ”を知ってるの?」

あなたちゃんは小さく首を振った。
けれどジェミンは、もう視線をそらしていた。

部屋の空気が、一気に凍る。

ジェミン「……ここ、“バレてる”んだね」

あなた「違うよ、ナナ……なにか、たまたま。書類とか……そういう……」

その瞬間――

ドンッ

壁を叩く音。
ナナが突然立ち上がり、左手で机を払った。
上にあった空のコップが落ちて、床に転がる。

ジェミン「“たまたま”? ねえ、あなたちゃん、ナナとここで“隠れてる”ってわかってるよね?
誰にも知られないように、生きてるって、わかってるよね?」

あなた「……ナナ……こわい顔しないで……」

チャイムがもう一度鳴る。

ジェミンの目が、モニターに向いた。

ジェミン「……あの人、帰らせて。今すぐ。
“この部屋には、誰も住んでません”って言って。
“もういなくなりました”って言って。
“間違いです”って。
……それか、ナナが出ようか?
どういう人間か、ちゃんと“見せて”あげようか?」

その笑みは、静かだった。
けれど――“本物の異常”がそこにあった。

あなた「……わたしが、行く。大丈夫だから」

震える声でそう言って、あなたちゃんはゆっくりドアへ向かう。
ジェミンはその後ろ姿を見つめたまま、呟いた。

ジェミン「……ナナ以外の誰かと話すたびに、あなたちゃんの言葉、ナナから離れていく気がするの。
怖いよ、あなたちゃん……ナナの中から、消えないでね?」

その言葉を背中で受け止めながら、
あなたちゃんはドアを開けた。


冷たい雨のにおいが、一瞬だけ部屋に入り込んで――
外の世界の気配を、確かに部屋の奥まで運んできた。









ナナは、じっとその空気を睨みつけていた。

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