第2話

冷えた空気の下、ナナと
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2025/11/30 15:21 更新
夜の22時を少し過ぎた頃。
商店街のシャッターはすっかり下ろされていて、通る人はほとんどいない。
少し湿った風が吹き抜けて、夏の終わりの匂いと、錆びた鉄のにおいが混ざる。

あなた「……寒くない?」

あなたちゃんが小さな声で聞くと、ジェミンはふっと笑った。

ジェミン「寒いの、嫌いじゃないよ」

そう言って、ジェミンは自分の着ている大きなパーカーのポケットに、あなたちゃんの手を無理やり押し込む。
手は冷たかった。けれど、ジェミンの体温で少しずつ温められていく。

ジェミン「……こうしてると、あなたちゃんがちゃんと隣にいるって思えるから」

ジェミンの声は、優しい。
でもその優しさの裏に、どこか「確かめている」ような、不安がにじんでいた。

ジェミン「ほかの人と、手、繋いだことある?」

突然の問い。
あなたちゃんは、びくりと肩を揺らす。

あなた「……ない、よ。そんなの……」

ジェミン「じゃあさ、ナナが最初で最後だよね?」

ジェミンは歩きながら、ちらりと目だけをこちらに向ける。
笑っているのに、どこか鋭いその目に、あなたちゃんは思わず目を逸らしてしまった。

あなた「うん……ナナしかいない」

ジェミン「よかった」

その言葉だけで、ジェミンは満足そうに息を吐く。
風が吹いて、少しだけパーカーの裾が揺れた。





歩道橋の下をくぐり、コンビニの灯りが遠くに見える。
でもジェミンはそっちには行かず、細い裏道に入っていく。

あなた「……ナナ、どこ行くの……?」

ジェミン「秘密の道。ナナが高校のときに見つけた、誰にも会わない道」

まるで子どもみたいに言いながら、でも足取りはしっかりしていた。
薄暗い裏道。壁に落書き、割れた窓、鳴いている猫。

ジェミン「ねえ、あなたちゃん。もしナナが今日、ここで倒れて、動かなくなったら……どうする?」

あなた「……ナナ」

ジェミン「置いて帰る?」

あなた「帰らないよ……そんなの、できないよ……」

そう言った瞬間、ナナは足を止めた。
そして、ふいにあなたちゃんを抱きしめる。

ぎゅう、と。
苦しくなるほど、胸に押し付けられるように。

あなた「……ね、ナナ?」

ジェミン「ナナ、あなたちゃんの“全部”が欲しいの。息も、声も、鼓動も、泣き顔も、夜の震えも、ぜんぶぜんぶナナの中に欲しいの」

その声は熱を帯びていた。
けれど寒気がした。

ジェミン「ねえ……ナナとひとつになれたら、夜、怖くなくなるよ。冷たい部屋でも。寒い風でも。ナナがいれば、平気になるから」

抱きしめたままのジェミンが、笑っているのが分かった。
目は見えない。でも、笑ってる気配がした。
すこし、壊れたみたいな笑い方で。

あなたちゃんは声を出せなかった。
鼓動が強くなって、息が詰まりそうだった。

でも――その腕を、拒むことはできなかった。

寒い夜だった。
ひとりでは、歩けなかった。
ナナの手を離したら、自分が壊れてしまいそうだった。

だから、歩く。
ナナに導かれるまま、冷たい夜道を。






月も星も、見えない夜だった。

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