第3話

割れる音とナナの声
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2025/12/01 15:22 更新
癇癪出てきます。













帰ってきた部屋は、どこか冷えすぎていた。
扉を閉めた瞬間から、外の空気よりも重い沈黙が押し寄せる。
あなたちゃんはそっと上着を脱いで、リビングの椅子の背にかけた。

ジェミンは黙ったまま、キッチンに向かう。
あなたちゃんの目を見ようとしない。

――おかしい、と思った。

さっきまで笑っていた。
さっきまで、ぎゅっと手を繋いでいた。
でも今は、まるで空気が変わってしまったみたいに冷たい。

あなた「……ナナ?」

返事はない。
電子ケトルのスイッチが入る音だけが、部屋に響く。

あなたちゃんが一歩、そっと近づいた瞬間だった。

ガシャァン!

乾いた破裂音とともに、マグカップが壁に叩きつけられた。
割れた陶器が跳ねて、キッチンの床に散らばる。

ジェミン「……なんで」

ジェミンの声が低い。
いつもの優しげな声じゃなかった。
喉の奥で何かが詰まっているような、震えを含んだ声。

ジェミン「なんで、今日、手を握り返してくれなかったの?」

あなた「え……?」

ジェミン「さっき……あの道で。ナナが手、入れたでしょ。パーカーのポケット。
あなたちゃん、動かなかったじゃん。握り返さなかった。……ナナ、気づいてたから」

あなたちゃんの指先が震える。

あなた「そ、そんなつもりじゃ……ナナ、そんなの……」

ジェミン「じゃあなに? なに? なに考えてたの? ……誰のこと考えてたの? ナナじゃないでしょ? ナナ以外のこと、考えてたでしょ?」

机の上のものが、ひとつ、またひとつ、弾かれるように落ちていく。
ペン立て、メモ帳、コップ、薬の袋――すべてが散らばる。

ジェミン「なんで、なんでナナだけこんなに苦しいの? なんであなたちゃんは平気な顔してるの!?
なんで、そんな顔できるの!? ナナのこと、愛してないの!? 愛してるって言ったのに、うそだったの!? うそだったの!? うそだったの!? うそだったの!? 」

怒鳴る声が、壁にぶつかって反響する。
いつも静かな部屋。隣に聞こえそうなほどの声。
けれど――ジェミンは止まらない。

ジェミン「なんでそんな顔してるの!? 泣けばいいじゃん!! 怒ってよ、嫌だって言ってよ、怖いって叫んでよ!!
……それとも、ほんとは、ナナなんかどうでもいいの!?
消えて欲しいって思ってるの!? 思ってるんでしょ!? 思ってるって言ってよ!!!」

そして――ふいに、沈黙。

あなたちゃんが、涙を浮かべて震えているのを見て、ジェミンはハッとしたように立ち尽くした。

ジェミン「……あなた、ちゃ……」

彼の中で、癇癪の火が、急激に冷えていく。

ジェミン「ごめん……ナナ……ナナ、また、こわくなっちゃった……
ごめん……でも、捨てないで、あなたちゃん……お願い……」

膝から崩れ落ちて、泣きそうな顔で縋りついてくるジェミン。
指先には血が滲んでいた。割れたカップの破片を踏んだのだろう。

あなたちゃんは震えたまま、ゆっくりとしゃがみこんで、
その指先に手を伸ばした。

――痛いのは、たぶん彼だけじゃなかった。






でも今はそれを、言葉にすることさえできなかった。

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