第5話

5 才覚
127
2024/06/04 11:00
ホークスside
彼女を事務所で保護してから一週間も経たない頃だった



ヴィランが減り、人も寝静まった頃事務所へ帰ると


何故かまだサイドキックが受付にいて

俺の姿を見るやいなやパッと駆け寄ってきた。
ホークス「どげんしたと?」
サイドキック「あの子のことなんですが……」
『あの子』


その単語がすぐに頭の中で、あなたに変換されて

なにか事件でもあったのかと身構える。

が、そうではないらしく。
サイドキック「あの子、最低でも2年ほど監禁されてて
       学校にも通った事ないんですよね…?」
そういう報告だったはずだが…。


訝しりながら頷く俺を見ながら
うーん…とサイドキックは唸る。
サイドキック「あの子、頭良すぎません?」
思ってもなかった角度からの質問に
こっちが呆気にとられる。
サイドキック「いやもともと文字とかは
       問題なかったんですけどね?
       2年前に監禁なら
       研究所で学んでたとしても
       小四くらいの範囲じゃないですか?」
改めて言われてみると確かに計算上そうなるはずだ。
サイドキック「なのに中学の範囲どころか
       高校の範囲までなんとなく理解してるし、
       外国語だって英語だけじゃなく
       フランス語、ドイツ語、ラテン語も
       大体読めてましたよ」
ラテン語の文なんて
どうやって試したんだと思ったが
 

今そんな変なとこに茶々をいれられる
雰囲気じゃないのはわかってる。



まさか身体能力だけじゃなくて脳もいじられてるのか。
ホークス「あなたはなんしようと?」
サイドキック「寝かせてます。
       流石に限界だったみたいで…」
ホークス「じゃあ、明日伝えておいて」

     「ちょっと予定より早いけど
     中学校に行かせる。詳細は追々決まってから」
了解と告げたサイドキックに
労いの言葉をかけてから自室へと戻る。

さっきの話からして
勉強面ではさほど問題いらないだろう。

中学に行かせるのも勉強面からではない。
ホークス「ふぅー」
話からして彼女が
最後に同い年くらいの子と話したのは2年以上前。

それすら彼女と同じような環境の子だったなら
今まで普通の環境で暮らしてきた子と
話したことはないだろう。


泣いて帰って来なきゃいいけど。

多少の不安に駆られながら眠りに着いた。
あなたside
中学校という場所はつまらなかった。

当たり前のことを繰り返す授業、
意味もなく優劣を決め、感情を剥き出しにする生徒

でも私だってそこまでバカじゃない。


適当に取り繕って従順なフリをして
お友達ごっこ。

簡単でつまらなくて面白くない…。



ただただ時間だけが浪費されていく。


けれどもホークスに中学は卒業しとかないと
経歴的に色々困ると言われてるから
行かないわけにはいかない。

理由は分からないが日常的に個性を使うなとホークスに
口酸っぱく言われてるから通学すらも時間がかかる。

個性教育の時間もなにもできないし…。


ここ最近の唯一の楽しみといえば
ホークスが帰ってきてから行う
個性訓練くらいだ。

その時間だけは唯一個性を使える。

だけど…、
ホークス「イタッ…」
個性訓練のとき、ホークスが偶然指を切る。

かすり傷程度で若干血が滲んでる。


大したことない怪我。

なのにゴクリと喉が鳴り、目が離せなくなる。



なにこれ……。


感じたことのない強い欲求が自分を襲い、
怖くなって思わず自分の腕を噛む。

痛いはずなのに感覚が麻痺したように
意識が朦朧とする。
ホークス「もしかして血、気になる?」
こっちに少し近づいて聞きにきたホークスと
大きく後ろに下がって距離をとる。

これ以上近づくと本能的に襲ってしまいそう。
あなた「フゥー…フゥー…」
荒い呼吸が自分の口から薄く漏れる。

見かねたホークスがすぐに自分の怪我の手当をし、
こちらへ駆け寄る。

血が見えなくなり幾分マシになったとはいえ
辺りに漂う血の香りが興奮を増長させる。

欲求に負けたくなくて噛む力が段々強くなり
じわりと口の中に鉄の味が広がる。
ホークス「こらこら、これ以上はほんとだめだから」
ホークスに力ずくで腕を噛むのをやめさせられ、

身体を抑えられる。


噛むものを失った私はジタバタと暴れる。

けどプロヒーローに力で敵うはずがなく
簡単にねじ伏せられる。

ピクリとも動けなくなった私の犬歯をなぞるように
ホークスが指で触れつつ「そっか〜」とつぶやく。
ホークス「ヴァンパイアってそっちの欲求もあるんだ」
苦しくて思わず涙が滲む私を見て
ホークスはスゥーッと私の犬歯に指を押し付け、
小さなキズを作る。

濃い血の匂いが口に広がる。
試すようにそのまま私の身体をホークスは放した。

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