霧のように揺れる意識の中、甲斐田はただ漂っていた。体はまだ現実の部屋にあるはずだが、心は夢の海に浮かぶ。どこへ向かうのかも、次に誰に出会うのかも、まったく分からない。ただ、流れに身を任せるだけだ。
「才能がない……頭も悪い……」
胸の奥でつぶやく。
言葉にすることで少しだけ重さが減る気がするが、消えることはない。現実では何も変えられず、達成できなかったことの残骸が、夢の中で重なり合う。
霧が晴れる瞬間、目の前に表現者の友人不破が現れた。
舞台の上で光を放ち、観客の歓声に包まれる。
だが舞台袖の微かな影には孤独がある。控室でのひそやかなため息、緊張でわずかに歪む肩、誰にも見せない不安。主人公は夢の中で、手に取るようにその全てを見つめる。
「……不破さん……こんなに輝いて……」
胸が熱くなる。
才能の光と孤独の影が同時に迫り、観察者としての自分の胸を締め付ける。手を伸ばせば触れられそうな距離なのに、現実とは違い、何も掴めない。
光景は消え、次に現れるのは発明家の後輩伊波だった。
小さな研究室で何かを組み立てている。
世界を変えるかもしれない大発明。
しかし、夢の中で伊波の発明は知らぬ間に兵器として使われ、残酷な結果を生む瞬間を主人公は目の当たりにする。血の雨が降る街、絶望に沈む人々――その光景を、主人公はただ見守るだけだ。
伊波はまだ無垢で善意に満ちているのに、
結果は残酷だった。
「チェンジ……またリセット……」
何度も心の中でつぶやく。
目の前に現れる友人たちはどれも輝いているのに、自分はただ漂い、観察するだけ。
光景が何度も切り替わり、山積みの亡骸のような過去や失敗の断片が渦巻く。
リインカーネーション
――繰り返される生まれ変わりの叫びが、耳元で反響する。
胸に熱い痛みが迫るが、手を伸ばしても届かない。
次に誰が現れるのか、どんな姿なのか、いつ夢が終わるのか、甲斐田には何も分からない。
漂う意識のまま、ただ光景を見つめる。
似たり寄ったりの物語が目の前で踊る。
表現者不破の舞台、発明家伊波の大発明、そしてまだ知らない未来の誰か。
どれも美しいが、完璧ではない。
力や善意が必ず報われるわけではなく、犠牲も生まれる。
「どうして……どうして……」
問いかけても答えは返ってこない。
夢は途切れず、意識は漂い続ける。
山積みの亡骸をすり抜け、光と影の海を泳ぎながら、次に立つ友人の輪郭を探す。
ただ観察者として、次の物語に導かれるままに。
霧の中に、微かに揺れる新たな光の輪郭が見える。
誰なのか、どんな姿なのか、主人公は知らない。
だが、確かに存在することだけは分かる。
夢はまだ終わらない。
漂い続ける意識のまま、主人公は次の波間へ踏み出す。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。