第29話

新月の夜
1,040
2022/12/16 10:03 更新
眠れない。

新月の夜、辺りは本当に真っ暗で、
音もあまりしない。

怖くなって、寝息を立てる万葉の手にそっと触れた。
万葉
……ん?……ん……眠れぬ、か?
あなた
あっ……!ごめん、起こして……。
万葉は眠い目を擦ってあなたの頬に触れる。
万葉
遠慮せずともよい。
こんなに怯えた顔で1人で耐えずとも。
相変わらず、万葉の目には色々なものがお見通しだ。
あなたは少し安心して、万葉の懐に潜った。
あなた
……ん。
万葉
大丈夫。こうしていれば、少しは落ち着くであろう?
万葉はあなたを抱きしめて、背中をトントンと叩いてくれた。
その温度を感じて、音に耳を傾ける。
あなた
……万葉。
万葉
ん?どうしたのでござるか?
……声が震えておる。まだ怖いか?
あなた
今夜は……暗くて静かだね。
万葉は先程よりも腕に力を込めて、あなたを包み込む。
あなたの耳が自分の胸に当たるように体勢を変えて、耳元で優しく言う。
万葉
では、これでいかがであろうか。
万葉の心音が聞こえてくる。
規則正しく、ゆっくりと打つ音に包まれていると、なんだか安心できた。
あなた
……聞こえる。
万葉
……何があろうと、拙者がお主を守る。
たとえこの鼓動が止まろうとも。必ず。
あなた
もっと怖くなること言わないでよ……。
万葉
……すまぬ。例え話であるよ。
お主を悲しませるようなことはせぬ。
あなたは涙目で万葉を見上げる。
万葉は少しバツが悪そうに微笑みながら、頭を撫でてくれた。
あなた
万葉に命懸けで守られて生き延びるくらいなら、私がやられたほうがまし。
万葉
……困ったことに、拙者も同じ気持ちでござる。
あなたは少し視線を落として黙ってしまった。
万葉は困ったように苦笑いを浮かべながら、またあなたの背中に手を回す。
万葉
……そんな顔をするな。
大丈夫でござるよ。拙者はここにいるではないか。
あなた
……うん。分かってる。困らせてごめん。
もう、少しだけ。
そう言って、万葉の胸にまた耳を当てる。
とくんとくんと頭に響く音が、今は精神安定剤のように心を落ち着かせてくれた。

万葉は優しい目で微笑んで、あなたの頭に手を置いて見ていた。
万葉
風も吹いてきた。
今宵は新月であるゆえ、月は見えぬが……星空が美しい。

……大丈夫でござるよ。何も怖いことは無い。
目を閉じて、ゆっくり呼吸を整えて。
こうしていれば……じきに眠くなるであろう。
万葉の声は心地よくて、彼の体温が温めてくれる。
気がつけば、あなたは夢の中だった。
万葉
……おやすみ。
あなたの寝顔にそっと口づけを落として、万葉も目を閉じた。

穏やかな風が木を揺らす音だけが響き、
真っ暗な世界で2人は温かい夢を見ていた。

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