一瞬で蘇枋と鹿沼の位置が変わった。
ぶすくれた桜の頭を軽く叩いて、ステージの上を見る。涼しい顔で構えている蘇枋とは対照的に、鹿沼は戸惑いと困惑を色濃く浮かべている。
ダッと鹿沼が勢いよく走り出し、蘇枋に殴りかかる。
日光が言った通り安直な鹿沼の策は見事に見破られ、手首を掴まれた鹿沼はそのままぐるりと回転してステージに背中を強打した。
おちょくられた鹿沼の顔が羞恥で真っ赤に染まる。
起き上がり様に蘇枋のスラックスを掴むが、
器用に足を使って勢いよくぶっ飛ばされた。
あなたの結の表現を拾ってメモ帳に書き付ける楡井を横目に見たあなたの結の耳に、蘇枋の声が入ってきた。
起き上がって蘇枋に掴みかかろうとした鹿沼をまたいなす。
梅宮と柊の会話も、ステージ上に飛んでいく獅子頭連メンバーのヤジも遠くに聞こえる。
思い出したらとたんに顔が熱くなった。
あなたの結が蘇枋の「大人になるために必要なものクイズ」の答えを探してぐるぐる考え込んでいる間に、鹿沼は更なる恥辱を味わっていた。
好き勝手な罵倒に顔を真っ赤にしながら、鹿沼は目の前でニコニコと聖人君子のように微笑んでいる蘇枋を見上げた。
押しても引いても掴んでも、一瞬でいなされる。
そこまで言うならお前らがやれ。と声を大にして叫びたい。
鹿沼を延々と弄んでいる蘇枋の姿は、聖人の皮を被った悪魔だ。昨日のひょうきんで優しい少年は見る影もない。
試合に出る前、桜とあなたの結にそれぞれ抱負を話していた姿が全員の脳裏に思い浮かんだ。
ズシャッと鹿沼がバランスを崩して転んだ時、あなたの結の脳内に閃くものがあった。
高架下で十亀を止めた時、あなたの結が咄嗟に考えた事が答えのような気がした。
錯乱した鹿沼が恐怖に染まった顔で蘇枋に殴りかかる。
鹿沼を迎え撃った蘇枋の蹴りは、風圧で鹿沼の動きを止めた。
ステージ上からまるでマジシャンのようにあなたの結に向かって拍手をする蘇枋が、そのまま固定の笑顔で鹿沼を振り返った。
両手を広げて満面の笑顔で、蘇枋は鹿沼にまるで勉強を教える教師のような口調で言った。
あなたの結が頷いたのと同じタイミングで拳を構えた蘇枋。
寝ていたらしい兎耳山がキョロキョロ辺りを見る。その仕草で、あなたの結には展開が読めた。
自分と対等に周囲を見ていない人間が、「要らない」と判断したものをどう扱うか。
今まで散々、見てきた。
心がひび割れる音がした。
ゴミの分別をするかのように淡々と、「要るもの」と「要らないもの」に仕分けされる、心も体もあるもの達。
“私”はそれを、いつだって見ているだけ。
違う。違うよ、蘇枋君。
私は大人なんかじゃない。
ただ、私は...
ステージから堂々と下りる蘇枋の姿を見られず、最後には膝に顔を伏せてしまった事が、いい証拠だ。
❤️×7でNEXT
20:00にとうらぶの新作を投下します。🌟、❤️をぜひお願いします。



























編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!