第4話

学校での政近
66
2025/12/26 06:29 更新
学校という場所は、政近にとって居心地が悪いわけではない。

むしろ、扱いやすい。

やるべきことが明確で、
評価基準が数値や結果として示され、
期待される役割も、分かりやすい。

教室に入ると、数人の視線が自然と集まる。
それに気づいていないふりをしながら、政近は自分の席に向かった。

生徒
おはよう、周防
声をかけられれば、きちんと返す。
周防政近
周防政近
おはよう
愛想は良くないが、冷たくもない。
それが、周囲にとっての“周防政近”だ。

成績は常に上位。
行事でも手を抜かず、問題を起こさない。
教師からの信頼も厚い。

――優等生。

誰かがそう評するのを、政近は知っている。
否定もしないし、肯定もしない。

(それでいい)

期待される像に、合わせているだけだ。

授業中。
教師の問いに指名されると、政近は簡潔に答える。
余計な説明はしない。
正解だけを、必要な分だけ。
教師
......正解だ。周防
教室の空気が、少しだけ緩む。
誰かが小さく息を吐くのが分かる。

(またか)

政近は、内心でそう思う。

自分が答えることで、
他の誰かが「当てられずに済んだ」空気。
それを、もう何度も経験してきた。

休み時間。
友人と呼べる存在は、いる。
だが、深く踏み込んでくる者はいない。
生徒
周防ってさ、何考えてるかわかんないよな
冗談めかした声が、後ろから聞こえる。
周防政近
周防政近
別に、何も。
政近はそう返す。
嘘ではない。

考えていないわけじゃない。
ただ、“考えていいこと”しか考えないようにしているだけだ。

放課後。
生徒会の仕事を終え、校舎を出る。

夕方の風が、朝よりも少しだけ暖かい。
制服の袖が、わずかに揺れる。

(今日も、問題なし)

そう総括できる一日。

成績も、人間関係も、評価も。
すべて想定内。
すべて合格点。

――完璧だ。

そう言われる理由は、自分でも分かる。
失敗しないように動き、
感情で判断せず、
最適解を選び続けている。

でも。

(……それで、何が残る)

ふと、そんな考えが浮かび、
政近はすぐに打ち消した。

考える必要はない。
評価されている。
役割は果たしている。

それ以上を望むのは、贅沢だ。

校門を出ると、
少し離れたところに、有希の姿が見えた。
同じ学校ではないが、帰り道が途中まで重なる。

小さく手を振ると、
有希は少し驚いたようにしてから、ぱっと表情を明るくする。
周防有希
周防有希


その反応に、胸の奥がわずかに揺れた。

(……妹)

家の中の評価でもなく、
学校での優等生としての視線でもない。

ただ、兄として見られる瞬間。

政近は歩幅を合わせながら、
その感覚を、深く考えないようにした。

プリ小説オーディオドラマ