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第3話

憎き相手にはナイフの花束を。
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2024/11/25 09:05 更新








私は、父が嫌いだ。大嫌いだ。

 



私は父親を、親とは思わない。思えない。

思ったことすらないし、思いたくもない。


あいつ父親には虐待癖がある。

私のからだのあちこちには青あざが出来ていた。

今のところ性暴力にまで発展したことはないが、

正直なところ、時間の問題だと思っている。



あんな糞野郎、死ねばいいのに。




















父さん
父さん
おい、お前。
 
父さん
父さん
聞こえないのか、おまえ!
父の怒号が飛び交う直前を見計らって、私は返事をした。この程度が、今の私に出来る精々の反抗だ。
杉野久美子
杉野久美子
なに。
父さん
父さん
聞こえているならすぐに来い。
杉野久美子
杉野久美子
・・・・・すみません。
父さん
父さん
ッチ、まぁ良い。酒だ、買ってこい。
父は酒に溺れた。お母さんが亡くなって以降ずっとだ。
父の周りは、酒の匂いが漂っている。

そばに転がっているのは缶ビールの空き缶。
杉野久美子
杉野久美子
・・・中学生だから、お酒は買えない。
父さん
父さん
うるさい!酒がなくなったんだ、屁理屈言ってないで買ってこい!
杉野久美子
杉野久美子
・・・はい。








そうして私は家を出た。時刻は午前二時を回ったところ。




正直に言えば、酒を手に入れること自体は難しくない。
万引きをすれば手に入るし、店員を脅せば買える。
 
ただし私は、店にはいかなかった。

せめてもの反抗だ。私は公園のベンチにいた。
杉野泰介
杉野泰介
やぁ久美子ちゃん。サボり?
彼は私のいとこあたる泰介さん。何かと良くしてくれる。
大学のキャンパスの関係で近くに住んでいるらしい。
杉野久美子
杉野久美子
べつに、学校に行かせて貰えてないだけ。
それだけ言うと泰介さんは、あぁと察したように頷いた。
杉野泰介
杉野泰介
叔父さんの虐待癖アレ
杉野久美子
杉野久美子
うん。
杉野泰介
杉野泰介
一本どう?
そう言って泰介さんが差し出したのは タバコ ウィンストン・キャスター
杉野久美子
杉野久美子
結構です。
杉野泰介
杉野泰介
そーか、未成年だもんね。
杉野泰介
杉野泰介
ま、辛くなったらいつでも言ってよ。
言いながら泰介さんはタバコの火を沈めた。
杉野久美子
杉野久美子
はい、ありがとうございます。
杉野泰介
杉野泰介
じゃ、またね。辛くて耐えれないならいっそ、殺してみちゃえば、なんてね。
杉野泰介
杉野泰介
葬儀の喪主くらいなら務めてあげるよw
杉野久美子
杉野久美子
はい。
私は否定も肯定もせず、一言だけ呟いた。
 





私は缶ビールの入ったコンビニのレジ袋を提げ帰宅した。
父さん
父さん
おぉ~、お帰りぃ。
私を迎えるそいつの顔は、ニタニタと薄笑っていた。
しかも手に持っているお酒、普段よりも良い高い酒だ。
杉野久美子
杉野久美子
その酒、その金はどうしたんだよ?、
不穏な気配を感じ取った私は、焦り混じりに疑問を放つ。
父さん
父さん
はは、臨時収入があったもんでな。
そう言ってヒラヒラと、顔の近くまで摘まみ上げたのは、
杉野久美子
杉野久美子
あ、私の財布!!?
父さん
父さん
結構な量入っていたじゃあないか。
それは私が貯めた金、お前の呪縛から逃れるために!!
杉野久美子
杉野久美子
ふざけ、るなよ!
不意に言葉が浮かんだ。



「殺してみちゃえば」

私は小さく顔を横に振り、その考えを押さえ込んだ。
杉野久美子
杉野久美子
・・・これ、かってきたから。
私は無気力に告げると、レジ袋を放って自室へ向かった。




 
もう、どうしようもない、



金はなくなった。全てあいつに持ってかれた。



この呪いのようなものから逃れる手立ては、
杉野泰介
杉野泰介
「殺してみちゃえば?」
再び浮かんできた言葉に、私は再び頭を振った。

今度は先程よりも大きく、その考えを振り払わんと。
杉野久美子
杉野久美子
でも、
でもそれ殺すことしか方法がないのだとしたら。


でもそれ殺すことをすると、全てが解決するなら。


でもそれ殺すことをしなければ、あいつから解放されないのなら。
杉野久美子
杉野久美子
殺してみちゃえば・・・・・・・・良い。















 
お母さんが死んでから、あの男は酒癖が悪くなった。


取り憑かれているかのように、延々と飲み漁っている。


当然、眠りこけてしまえば中々起きることはないはずだ。
杉野久美子
杉野久美子
殺すこと、殺してみれば、
杉野久美子
杉野久美子
殺せば、いい。
意識した訳じゃない。恐怖で滲み出ている声は小さい。
そもそも声を押さえる必要はない。どうせ起きない。



  “一生”


 
私はキッチンから調達しておいた包丁を握り直した。


そのままその男の真横に構え、包丁を振り上げる。
杉野久美子
杉野久美子
っ 、、、
葛藤はあった。でも全て振り払ってきた。

手はずも、この場に来る前に出来る限り整えた。
杉野久美子
杉野久美子
っ!
自重を乗せんと倒れ込みながら包丁を振り下ろす。

やつの心臓をめがけて刃の先端が近づいていく。
杉野久美子
杉野久美子
ぐっ 。!






私は膝立ちの状態で膠着した。からだが動かなくなった。




振り払ったはずの、余計な・・・感情が今になって返ってきた。




いらない。こんなもの・・・・・、いらない。存在しちゃいけない。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理だ。
私は目を閉じた。諦めよう。もう無理だ。諦めよう。



私には、その覚悟がつかなかった。できなかった。



だって、だって、だって、だって、






どれだけひどくされても、


どれだけ苦しくても、


どれだけ寂しくても、


どれだけ辛くても、


どれだけ、、、どれだけ、、、どれだけ、、、





思い出ってものは消えないから。

想いってものは消えたりなんて、絶対にしないから。

格好良くて、優しかった頃のお父さんの姿が、

記憶から消えることは、あり得ないから。








だから、やっぱり、私は、












どんなお父さんでも、こんなお父さんが、だいす















































































杉野久美子
杉野久美子
え、、




















私の手は、何者か・・・に引っ張られ、その包丁は、深く










 
杉野久美子
杉野久美子
お父さん!!



彼の胸部へ、深く、深く、突き刺さっていた。





見間違えるはずもない。


まだ私が小さかった頃、任せろと自慢げに叩いていた胸、


その胸に、刺さっている包丁。私の持っている包丁。
父さん
父さん
・・・・・・・やるなら、一気にやれ。
細々とした声で、お父さんは私に語りかけてきた。
杉野久美子
杉野久美子
なん、で。
父さん
父さん
大方、酒癖が悪いから起きないだろうとでも踏んでいたのか。安心しろ、俺は酒にはめっぽう強いさ。
父さん
父さん
まず、謝らんといかんな。
私はポケットからスマートフォンを取り出して、
杉野久美子
杉野久美子
もういい!喋らないで!
杉野久美子
杉野久美子
呼ぶから、警察と、救急車、、、
父さん
父さん
やめろ、犯罪者にはなるな。
父さん
父さん
泰介を連絡しろ。あいつには、全て伝えてある。
お父さんは私の手を掴んで、無理矢理に制止した。
父さん
父さん
母さんが亡くなってから、俺の酒癖は悪くなった。
父さん
父さん
まぁ、お前も知っての通りだな。
そこから、お父さんは語り始めた。淡々と告げていく。
父さん
父さん
良く言うだろ。酒は嫌なことを忘れさせてくれるって。だから俺もさ、溺れたよ。めっぽう酒に頼った。
父さん
父さん
でも、酒程度じゃ本当に辛いことは忘れられない。母さんのことは忘れられなかったさ。で、結果はアルコール中毒。
一切の苦しさすら見せない姿に私は惹かれ、耳を傾けた。
父さん
父さん
誰だよ、酒は何でも忘れさせてくれるなんて、そんな虫の良い、都合の良いことを言い出したやつは。
父さん
父さん
間違いなく俺はもうすぐ死ぬ。だからって訳じゃないが、最後に言うことだけは聞いておけ、・・・いいな・・・・・、
最後の言葉、いわゆる遺言というやつだろう。

私は身を乗り出した。視界は、やや霞んでいるだろうか。
父さん
父さん
クローゼットの、俺の背広、内のポケットに、金庫の鍵がある。それを、当分の生活費にしろ。
声はもう、ほとんど出ていない。枯れきっている。
父さん
父さん
それと、なんだ、はは。今まで、すまんかったな。
父さん
父さん
俺は、お前が、大好きだったよ。久美子。。。
杉野久美子
杉野久美子
あ、、、
私は、言葉を失った。



それでも言いたい、言わなければならない。


声を、想いを、全てを、紡げ! 言葉を、紡げ!
杉野久美子
杉野久美子
わ、私も!大好きだよ、、、お父さん!






























杉野泰介
杉野泰介
『うん。わかった。待っててね。』
私は泰介さんに連絡をした。十分程度で到着するという。









私はお父さんの言葉を復唱していた。



確か、背広のポケットに金庫の鍵があるといっていたか。
私は無気力に立ち上がり、クローゼットへ向かった。




何が入っているのかは明確だ。金だと、明言をされた。



それでも、お父さんが伝えたのには意味があると思った。








ガチャ
 
そうして私は、その中身に目を向け、















































言葉を失った。
杉野久美子
杉野久美子
え。



だって、


だって、


だって、


そこにあったのは、


そこにある紙に、書いてあったのは、










幼児が描いたように見える、三つの顔。





そして、拙い平仮名で書いてあるのは。







































   「パパ、ママ、だいすきだよ」



























火葬の日、私は棺桶に一枚の紙をいれた。中身は当然、、


杉野久美子
杉野久美子
パパ、ママ、だいすきだよ。
あの日、金庫で見つけたもの。




父はよく金庫の前で笑っていた。


金ならば、と合点がいっていたが、






きっと、いつまでも私のことを想ってくれてたのだろう。

きっと、いつまでも母のことを思ってくれてたのだろう。



今なら、高らかに宣言できるよ。お父さん。私は、























私は、お父さんが好きだ。大好きだ。

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