私は、父が嫌いだ。大嫌いだ。
私は父親を、親とは思わない。思えない。
思ったことすらないし、思いたくもない。
あいつには虐待癖がある。
私のからだのあちこちには青あざが出来ていた。
今のところ性暴力にまで発展したことはないが、
正直なところ、時間の問題だと思っている。
あんな糞野郎、死ねばいいのに。
父の怒号が飛び交う直前を見計らって、私は返事をした。この程度が、今の私に出来る精々の反抗だ。
父は酒に溺れた。お母さんが亡くなって以降ずっとだ。
父の周りは、酒の匂いが漂っている。
そばに転がっているのは缶ビールの空き缶。
そうして私は家を出た。時刻は午前二時を回ったところ。
正直に言えば、酒を手に入れること自体は難しくない。
万引きをすれば手に入るし、店員を脅せば買える。
ただし私は、店にはいかなかった。
せめてもの反抗だ。私は公園のベンチにいた。
彼は私のいとこあたる泰介さん。何かと良くしてくれる。
大学のキャンパスの関係で近くに住んでいるらしい。
それだけ言うと泰介さんは、あぁと察したように頷いた。
そう言って泰介さんが差し出したのは タバコ 。
言いながら泰介さんはタバコの火を沈めた。
私は否定も肯定もせず、一言だけ呟いた。
私は缶ビールの入ったコンビニのレジ袋を提げ帰宅した。
私を迎えるそいつの顔は、ニタニタと薄笑っていた。
しかも手に持っているお酒、普段よりも良い高い酒だ。
不穏な気配を感じ取った私は、焦り混じりに疑問を放つ。
そう言ってヒラヒラと、顔の近くまで摘まみ上げたのは、
それは私が貯めた金、お前の呪縛から逃れるために!!
不意に言葉が浮かんだ。
「殺してみちゃえば」
私は小さく顔を横に振り、その考えを押さえ込んだ。
私は無気力に告げると、レジ袋を放って自室へ向かった。
もう、どうしようもない、
金はなくなった。全てあいつに持ってかれた。
この呪いのようなものから逃れる手立ては、
再び浮かんできた言葉に、私は再び頭を振った。
今度は先程よりも大きく、その考えを振り払わんと。
でもそれしか方法がないのだとしたら。
でもそれをすると、全てが解決するなら。
でもそれをしなければ、あいつから解放されないのなら。
お母さんが死んでから、あの男は酒癖が悪くなった。
取り憑かれているかのように、延々と飲み漁っている。
当然、眠りこけてしまえば中々起きることはないはずだ。
意識した訳じゃない。恐怖で滲み出ている声は小さい。
そもそも声を押さえる必要はない。どうせ起きない。
“一生”
私はキッチンから調達しておいた包丁を握り直した。
そのままその男の真横に構え、包丁を振り上げる。
葛藤はあった。でも全て振り払ってきた。
手はずも、この場に来る前に出来る限り整えた。
自重を乗せんと倒れ込みながら包丁を振り下ろす。
やつの心臓をめがけて刃の先端が近づいていく。
私は膝立ちの状態で膠着した。からだが動かなくなった。
振り払ったはずの、余計な感情が今になって返ってきた。
いらない。こんなもの、いらない。存在しちゃいけない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理だ。
私は目を閉じた。諦めよう。もう無理だ。諦めよう。
私には、その覚悟がつかなかった。できなかった。
だって、だって、だって、だって、
どれだけひどくされても、
どれだけ苦しくても、
どれだけ寂しくても、
どれだけ辛くても、
どれだけ、、、どれだけ、、、どれだけ、、、
思い出ってものは消えないから。
想いってものは消えたりなんて、絶対にしないから。
格好良くて、優しかった頃のお父さんの姿が、
記憶から消えることは、あり得ないから。
だから、やっぱり、私は、
どんなお父さんでも、こんなお父さんが、だいす

私の手は、何者かに引っ張られ、その包丁は、深く
彼の胸部へ、深く、深く、突き刺さっていた。
見間違えるはずもない。
まだ私が小さかった頃、任せろと自慢げに叩いていた胸、
その胸に、刺さっている包丁。私の持っている包丁。
細々とした声で、お父さんは私に語りかけてきた。
私はポケットからスマートフォンを取り出して、
お父さんは私の手を掴んで、無理矢理に制止した。
そこから、お父さんは語り始めた。淡々と告げていく。
一切の苦しさすら見せない姿に私は惹かれ、耳を傾けた。
最後の言葉、いわゆる遺言というやつだろう。
私は身を乗り出した。視界は、やや霞んでいるだろうか。
声はもう、ほとんど出ていない。枯れきっている。
私は、言葉を失った。
それでも言いたい、言わなければならない。
声を、想いを、全てを、紡げ! 言葉を、紡げ!
私は泰介さんに連絡をした。十分程度で到着するという。
私はお父さんの言葉を復唱していた。
確か、背広のポケットに金庫の鍵があるといっていたか。
私は無気力に立ち上がり、クローゼットへ向かった。
何が入っているのかは明確だ。金だと、明言をされた。
それでも、お父さんが伝えたのには意味があると思った。
ガチャ
そうして私は、その中身に目を向け、
言葉を失った。
だって、
だって、
だって、
そこにあったのは、
そこにある紙に、書いてあったのは、
幼児が描いたように見える、三つの顔。
そして、拙い平仮名で書いてあるのは。
「パパ、ママ、だいすきだよ」
火葬の日、私は棺桶に一枚の紙をいれた。中身は当然、、
あの日、金庫で見つけたもの。
父はよく金庫の前で笑っていた。
金ならば、と合点がいっていたが、
きっと、いつまでも私のことを想ってくれてたのだろう。
きっと、いつまでも母のことを思ってくれてたのだろう。
今なら、高らかに宣言できるよ。お父さん。私は、
私は、お父さんが好きだ。大好きだ。















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。