第8話

【コラボ作品】それを送りたい男 ✘ kid
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2025/08/21 15:03 更新
────昨夜、電話口で彼氏と喧嘩をした。
本当に些細なことで。

今となっては、なんでこうなったんだか、
思い出せないくらいのこと。

ただただ、
「もういい」
と言い放たれた声が耳にこびり付いている────。



本日は、華金はなきん
明日はお休みのウキウキデー。

……のはず。
本来なら、の話だけど。


たとえ辛いことがあっても、
身体に問題が無ければ出社する。
社会人ですから、ね。

慣れた手つきで業務をこなし、
気が付けば終業時刻が近づいている。

「定時で帰れなさそうな人いるー?」

そう声を上げたのは、同じ部署の同期、
甲斐田晴さん。

彼のこなす事務作業は実に綺麗に整っている。
几帳面で真面目な彼らしく、
作成される文書の出来も言わずもがな。

「もしいたら助けるから、早めに申告してね~」

そう言いながら、部署内を歩き回り、
同僚たちが声を掛けやすいようにしていた彼。

実際何人かに捕まり、
度々フロア共有の給湯スペースへ行っては、
紙コップを片手に戻って、各々に差し入れしつつ、
都度アドバイスをしている声が聞こえてくるし、
いくつか仕事を受けているようにもみえた。


「これ飲み切ったら、仲直りしなね」

そう言って、甲斐田さんは私の向かいの席の、
今日はやたらとスマホをチラチラ確認している
剣持さんのデスクに紙コップをコトンと置いた。

(仲直り……?)

その単語に、自分も喧嘩をしていることを思い出す。
……思い出したところで、どうしようもないのだけれど。

甲斐田さんの置いたコーヒーを見つめて眉間に皺を寄せる
剣持さんと同様に、私の眉間にも皺が入った。


「あなたの名字さんは、定時で帰れそう?」

そう聞かれ、私のデスクにもコーヒーが置かれた。

「お疲れ様です。ここだけちょっと不明瞭なんですけど、
わかりますか?」

答えながら眉間を1度押すようにほぐし、
ディスプレイを指さして質問をすると、
覗き込むようにして近付かれ、
フワッと彼の匂いがして、少しドキッとした。

「あぁ、これは……、────だから
────で、いいと思う」

「ありがとうございます」

欲しかった指示をもらえて、
安心して作業に戻れる。

「お陰様で、定時帰り出来ます」
「そっか。良かった。あと少し頑張って」

甲斐田くんはそう言って、私の肩を優しく叩いた。

「あ、コーヒー、あなたの名字さんのだからね」
「……ありがとうございます。いただきますね」

甲斐田くんはそのあとも、
同僚たちを見てまわるために私の元を去っていった。

置かれたコーヒーを見つめたあと、ふと顔を上げると、
またスマホをチラッと見ていた剣持さんが
コーヒーを飲んでいた。

「難儀な仲直りの方法だね」

そのカップの底に書かれていた文字が見えて、
口をついて出てしまった。

(どんな方法でも、仲直り出来るのは羨ましい)

「え? どういう意味?」

剣持さんの反応はごもっとも。

「豪快に飲みきったら、解るかもね」

それだけ伝えて、仕事に戻った。


甲斐田くんは、フォローする人を
ひと通り拾い上げられたようで、
自分のデスクに戻っていくのが見えた。

なんとなくそれを目で追いながら、
もらったコーヒーをひと口啜った。



(……甘い)



私は、コーヒーはブラック派だ。
甘いコーヒーが好きなのは、甲斐田くんだ。

だから、間違えたのかな? と思う、


……わけではない。


これは、秘密の社内恋愛をしている彼からの、
「今夜会おう」という「甘い」メッセージなのだ。


そう。
私の彼氏は甲斐田晴。

昨夜、電話口で喧嘩をした彼氏。
「もういい」と吐き捨てた、その本人。


ここまで、一切そのことには触れず。

いつものように社内では、
どこまでいってもただの同僚である対応だった。


(会って、くれるんだ……)


このまま、振られてしまうのを、覚悟していた。
……嫌だけど。

ほんの小さな喧嘩から別れ話になるなんてことは、
実はよくある話だろうと思うから。

もしかしたら、
……別れ話をされてしまう可能性も、
ゼロではないけれど……。

口に残る甘さに浸り、
一旦の安心から1度しっかりと目を閉じて、
今夜会えるという事実を噛み締める。



ゆっくりと目を開けると、
少し離れた席からこちらを見ていた晴と目が合った。


瞬間、泣きそうになった。


目が合った晴は、
手を合わせていて、

『ごめん』

と、口が動いたのが見えたからだ。


謝るのは、私も同じなのに。
……先に謝ってくれるんだ。


良かった。
振られるわけではないようで。


私は小さく頷いて見せ、
自分を指さしてから、その手を顔の前で縦にかざし、
彼と同じように、声を出さずに『ごめん』と口を動かした。


謝れたことに安堵したら、
向かいの席から人影が立ち上がる。

「直接来ればいいじゃん……。
なんで甲斐田くん挟むんだよ」

剣持さんはカップ裏に書かれたメッセージを
見つけたようで、文句が聞こえてきた。
けれど、流れるようにまた確認していたスマホを
見た瞬間、少しだけ目を見開いて、歩き出した。


私は再び晴と目を合わせ、
コーヒーを口元に運び、
持ってない方の手で小さくOKサインを作った。


晴は、ぱぁっと花が咲いたみたいな笑顔になって、
調子に乗って投げキッスをしてきた。


────のを、
向かってきた剣持さんに見られ、

「わ! なにしてんの?! キモっ! セクハラ?」

と怪訝そうな目で見られ、ツッコまれ、
あげくには「あーあ、やだやだ」と呆れられ、
「僕、ちょっと出てきまーす」と廊下へ出ていく
剣持さんを横目に、

私はそっと目を伏せて笑いを堪え、作業に戻った。



今夜は仲直りから始めよう。




__𝐹𝑖𝑛.


【あとがき】

晴くんの呼称を少しずつ変えていくことで、
心の距離感的なのを出したつもり。
……え、全然気付かなかったって?


またまたまゆりさんとのコラボ作となりました😊✨
えへへへへ、楽しかった( *´艸`)

元々まゆりさんからのリクエストで書き始めた本作。
最後のモブのセリフを、勝手に私の中では剣持くんの
セリフだったりするんだよねぇ、とまゆりさんに
振ったところ……、ふふふ、まんまとコラボに乗って
もらえたんですよおおおおお!
私、策士(≖ᴗ≖ )ニヤリ

お互いなかなか思うように時間が取れずに、
公開まで大変だったけど、
いいお話になったんじゃないかなと思う!
共有給湯スペースとか、テキストで図面出して
くれた時には、感心しかしなかったよ!

何せ楽しかった。
ここでこれ言わせて欲しい、とか、
こういう態度を見せといて欲しい、とか、
……楽しかった。

剣持くん、お誕生日おめでとう!!

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