デビュー準備が本格化してから一週間。
スタジオには、少しだけ“慣れ”が生まれ始めていた。
それは良い意味ではない。
白鳥るなは鏡の前で振り付けを確認しながら、小さく息を吐いた。
足の動きは合っているはずなのに、どこか揃わない。
視線を横にずらすと、一ノ瀬えとが無言で動きを修正している。
一切の無駄がない動き。
正確で、ブレがない。
そう思うのに、同時に少しだけ悔しい。
即座にえとの声が飛ぶ。
言葉の違いだけなのに、重みが違う。
るなは唇を噛んだ。
そのやりとりを見ていた河合のあが、静かに間に入る。
えとは動きを止める。
のあの声は柔らかいのに、芯がある。
一瞬だけ沈黙。
るなはその間に小さく息を吸った。
無理に笑う。
その笑顔を見て、のあは少しだけ目を細める。
えとは何も言わずに再び動き始めた。
音楽が再開される。
何度も繰り返すうちに、少しずつ形は揃っていく。
でも——まだ“噛み合っている”とは言えなかった。
スタッフの声。
音が止まる。
3人は一度立ち位置に戻る。
そのときだった。
るなが小さく呟いた。
2人が振り向く。
えとは目を細める。
のあは少しだけ黙る。
意外にも、最初に口を開いたのはのあだった。
えとは眉を少し動かす。
その問いは真剣だった。
のあは少し考えてから言う。
るなは首をかしげる。
えとは即答する。
でも、その声は否定というより確認だった。
夕方。
練習が終わり、3人は更衣室に向かっていた。
廊下は静かで、外の光だけが長く伸びている。
るながふと立ち止まる。
2人が振り返る。
えとは一瞬だけ考える。
のあは微笑む。
るなは小さく笑った。
えとは歩き出しながら言う。
冷たい言い方。
でも、もう昨日ほど刺さるものではなかった。
るなはその背中を見ながら思う。
のあも静かに歩き出す。
その言葉に、るなは少しだけ安心する。
スタジオの扉が閉まる前。
3人の影が一瞬だけ重なった。
まだ完全には揃っていない。
でも確かに、
同じ方向に向き始めていた。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!