第4話

"ズレ"
64
2026/06/08 08:04 更新
デビュー準備が本格化してから一週間。

スタジオには、少しだけ“慣れ”が生まれ始めていた。
それは良い意味ではない。

白鳥るなは鏡の前で振り付けを確認しながら、小さく息を吐いた。
るな
るな
ここ、ズレるな…
足の動きは合っているはずなのに、どこか揃わない。

視線を横にずらすと、一ノ瀬えとが無言で動きを修正している。
一切の無駄がない動き。

正確で、ブレがない。
るな
るな
…すご
そう思うのに、同時に少しだけ悔しい。
えと
えと
そこ、一拍遅い
即座にえとの声が飛ぶ。
るな
るな
えっ…?今ちゃんと合わせたよ?
えと
えと
“ちゃんと”じゃなくて、“揃うように”
言葉の違いだけなのに、重みが違う。
るなは唇を噛んだ。

そのやりとりを見ていた河合のあが、静かに間に入る。
のあ
のあ
えとさん、今の言い方きついかも
えとは動きを止める。
えと
えと
…事実言ってるだけだよ
のあ
のあ
でも、るなちゃん困ってるよ…?
のあの声は柔らかいのに、芯がある。

一瞬だけ沈黙。
るなはその間に小さく息を吸った。
るな
るな
だ、大丈夫!すぐ直すから!
無理に笑う。

その笑顔を見て、のあは少しだけ目を細める。
えとは何も言わずに再び動き始めた。
音楽が再開される。
何度も繰り返すうちに、少しずつ形は揃っていく。

でも——まだ“噛み合っている”とは言えなかった。
スタッフ
ストップ!
スタッフの声。
音が止まる。
スタッフ
もう一回、最初から!
3人は一度立ち位置に戻る。

そのときだった。
るなが小さく呟いた。
るな
るな
…なんかさ
2人が振り向く。
るな
るな
一緒に踊ってるのに、一緒じゃない感じする
えとは目を細める。
のあは少しだけ黙る。
のあ
のあ
…わかる
意外にも、最初に口を開いたのはのあだった。
えとは眉を少し動かす。
えと
えと
じゃあ、どうすんのさ
その問いは真剣だった。
のあは少し考えてから言う。
のあ
のあ
相手を見る、じゃなくて……一緒にいるって思う、とか?
るなは首をかしげる。
えと
えと
…むずい
えとは即答する。

でも、その声は否定というより確認だった。
夕方。

練習が終わり、3人は更衣室に向かっていた。
廊下は静かで、外の光だけが長く伸びている。

るながふと立ち止まる。
るな
るな
…ねえ!
2人が振り返る。
るな
るな
今日さ…ちょっと揃ってたよね!
えとは一瞬だけ考える。

のあは微笑む。
のあ
のあ
うん
るなは小さく笑った。
るな
るな
じゃあ、ちょっとだけ進んでるってことだよね
えとは歩き出しながら言う。
えと
えと
まあね
冷たい言い方。

でも、もう昨日ほど刺さるものではなかった。
るなはその背中を見ながら思う。
るな
るな
この子…
のあも静かに歩き出す。
のあ
のあ
これから"3人で"頑張ろうね
その言葉に、るなは少しだけ安心する。
スタジオの扉が閉まる前。
3人の影が一瞬だけ重なった。

まだ完全には揃っていない。

でも確かに、
同じ方向に向き始めていた。

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