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第39話

後日談#12
20
2026/08/06 14:25 更新
あなたの名字「待ちなさい!!」

ハロウィン前日。しかしそんなことお構いなしに事件というのは起こる。

犯人は私の言葉に耳も貸さず、ひたすらに走って逃走する。
パルクールでもしているかのような気分になる。
塀を乗り越え、公園のブランコを潜り抜け、ひたすらに走り続ける。

そこで無線に連絡が入る。

諸伏「犯人は今、どこに?」

大和「俺たちで挟み撃ちにする。そのポイントまでうまいこと追いやってくれないか」

あなたの名字「っと、今は......」

近くの交差点を見上げる。

あなたの名字「市役所前の交差点から北に向かって逃走していますっ」

私の回答から少しの間が経ってから高明さんが口を開く。

諸伏「それでは、その先のT字路を右に曲がって、その突き当りのT字路で挟みましょう」

大和「俺は南側から行くから高明は北側から頼む」

諸伏「あなたの名前、頼みましたよ」

あなたの名字「わかりました」

そのまま犯人を追い続け、1つ目のT字路に差し掛かる直前で速度を上げる。
犯人との距離はわずか3メートル。そこで犯人の左側から追い抜くつもりで全力疾走をする。
そして思い通り、犯人はそこのT字路を右に曲がる。赤信号であったがしょうがない。

あなたの名字「くっ、」

少し足がもつれてしまった。それにより犯人とはまた距離ができてしまったが、特にこの先、約束のポイントまで分岐路はないからこのまま追い続ければ......



大和「ここまでだっ」

諸伏「この先は通しませんよ」

2つめのT字路まで来ると高明さんと大和警部が2人で左右の道をふさいでいた。
私もそのまま追い続け逃げ道を塞ぐ。

犯人「くそっ、」

大和「確保!!」

そういって犯人に大和警部が近寄る....と、犯人は私のいる方に逆走してきた。
まあ確かに、大和警部や高明さんよりは、私のところの方が逃げられる確率は高いだろう。
然し私だって、伊達に警察官しているわけではない。

あなたの名字「通しませんよ!!」

犯人「いや、通させてもらうっ.....よ!」

あなたの名字「なっ、」

そういうと犯人は胸元から小型のナイフを取り出す。
けれどそれにひるむ私ではない。

まっ正面から走りこむ犯人に私も正面から向かい入れる。
落ち着いて、犯人の手元に目をやる。

大丈夫、避けられ.......

あなたの名字「いっ、」

犯人のナイフが私の手首を掠る。が、その隙を見逃さず、犯人の手首を切られた反対の手でつかむ。

あなたの名字「抵抗しないでください。10月30日、16時24分、犯人確保!」

そういって犯人に手錠をかける。

大和「おい大丈夫か!?」

あなたの名字「多分......。肝心な血管はいかれてないので、平気です。」

諸伏「犯人は敢助くんにまかして、貴方はすぐに署の医務室に行きましょう。肩を貸しますから、私の車まで歩けますか」

大和「おいおい、面倒事は押し付けってか」

あなたの名字「すみません」

大和「いや、あなたの名字は安静にしてろ。もとはと言えば俺が逃がした星なんだから、謝るのは俺だ」

諸伏「君の担当の事件で、君が逃がした犯人なのだから、君が面倒事を背負うのは当たり前でしょう」

大和「はぁ、ったく、あなたの名字は任せたぞ、高明」

諸伏「君に言われなくても」


そんな会話をして、私と高明さんは車に乗り込む。

諸伏「ガーゼです。傷口に菌が入るといけませんから、押さえておいてください」

あなたの名字「すみません」

諸伏「本当ですよ」

思っていたのとは違う返答に私は一瞬、言葉に詰まった。
もちろん迷惑をかけた身で言えた話じゃないだろうけれど、
それでも高明さんは笑って次は気を付けてください、とだけ言うものだと思っていた。

諸伏「君は自分のことをもう少し大事にしてください」

あなたの名字「してますよ」

諸伏「いえ、していません。今日だって、もしあのまま急所を刺されたりしていたらどうするつもりだったのですか」

返答に困った。警察官というのはそういう仕事なのだから、危険を顧みずに正義を遂行するものだと思っているから。

諸伏「今日だけじゃない。君はいつでも捨て身で無茶をする」

あなたの名字「......諸伏警部に言われたくありませんよ。それは、貴方だってそうじゃないですか」

前に聞いた、大和警部が記憶喪失になったときの話。
高明さんこそ、捨て身で無茶をするような人間じゃないか。

諸伏「君は女性です」

あなたの名字「警察官に、男も女も関係ないでしょう」

諸伏「心配なのですよ。いつもいつも、無茶をして、怪我をして」

話をそらされる。いい弁解が思いつかなかったのだろうか。

あなたの名字「そういう仕事です」

諸伏「それにしても、もっとやり方はあるでしょう。彼氏としては、やはり心配なのです。彼女が傷つくのはいやなのですよ」

あなたの名字「私だって好き好んで怪我をしてきてるわけじゃない。それでも成し遂げなければいけない任務があるから、そのために必要な犠牲を払っているだけです。警察官の仕事は危険が隣り合わせということくらい、私よりもよく理解していますよね」

ついカッとなって一気に言葉をまくしたててしまう。

諸伏「わかっています。そんなこと知っていますよ。私は死にかけたことだってあるのですから。だから、だからいうのです。貴方は本当に責任感もあって行動力もある。だからこそ、ふっといなくなってしまいそうで......」

返す言葉も出てこない。高明さんの言葉には重みがある。今までに大和警部や由衣ちゃんから聞いた、高明さんの過去の話。燃える館に取り残されたり、凍った川におっこちたり。幾度となく死にかけて無茶をしてきたこと。それでも今日まで生き延びた人間の言葉には重みがあった。

無言のまま気づけば県警に戻ってきていた。

同僚「あなたの名前ちゃん!大丈夫?医務室まで.....諸伏警部も一緒に......」

車からでてすぐ、同僚が話しかけてきた。きっと大和警部が連絡をしてくれて迎えにきてくれたといったところだろう。

あなたの名字「あ、ありがとうございます」

諸伏「私は報告書もあるので。あとはお願いしてもいいですか」

あなたの名字「え」

てっきり医務室までついてきてくれるものだと思っていた。

同僚「承知しました。あなたの名字ちゃん、ゆっくりでいいから、一緒に行こう」

同僚の言葉も入ってこないくらいに私は動揺してしまった。
怒らせてしまっただろうか。でも、心配をかけたとしても、それでも私は無茶をせずに犯人をあきらめるなんてこと、できない。

同僚「あなたの名字ちゃん......?」

もう一度、同僚が声をかけてくれたことでハッとする。

あなたの名字「あ、ごめんなさい!医務室まで、お願いします」

もやもやした気持ちのまま、私は医務室へ向かった。
その後、軽く処置をしてもらいそのまま業務に戻った。
今日の事件の報告書は大和警部と高明さんで片づけてしまったようだったので
私は他のデータの整理などをして今日の残りを過ごした。

そして19時。高明さんはすっと立ち上がると、そのままさっと帰り支度をして
私に声をかけることもなく、帰ってしまった。

あなたの名字「あっ、」

私が声にしたときにはもう遅く、高明さんはフロアから姿を消していた。
やっぱり怒らせてしまったのかもしれない。でも私が悪いわけでもないんだからどうすればいいのかわからない。

そんな感じで上の空でいると気づけば時刻は20時00分。まだ残っている人はほとんどいなくなっていた。

上原「あなたの名前ちゃん、大丈夫?」

あなたの名字「あ、由衣ちゃん......」

負のオーラを纏っていたのだろうか、心配そうな顔で由衣ちゃんが私に声をかけてきた。

上原「もしかしてだけど、諸伏警部と喧嘩した?」

あなたの名字「え?」

上原「いつも、2人で帰るのに今日は諸伏警部、先に帰っちゃったみたいだし、あなたの名前ちゃん、それからずっとぼーっとしてたから、もしかしてって思って」

由衣ちゃんの観察眼は流石だった。これが警察の力なのだろうか、それとも友達の力なのだろうか。

あなたの名字「う、うん。実は、さ」

そうして私はそのまま、由衣ちゃんにすべてを話してしまった。
途中から泣き出してしまって、なにをいってたかわからなかったかもしれない。

上原「そっか......。そこがあなたの名前ちゃんのかっこいいところだし強みだと思うけど。でも心配するきもちもわかるなぁ」

あなたの名字「私もね、大事な人に心配とか迷惑をかけたいわけじゃないの。でもさ、やっぱり警察として、命を懸けてでも責任もって犯人を追うべきだと思って」

上原「きっと、その気持ちは諸伏警部もわかってくれると思うよ。わかってくれるというか、自分自身も思ってると思う」

あなたの名字「私より高明さんの方がよっぽど無茶する人なのに、私ばっかりに注意してさ。私だってそういう私情とか挟まないで一生懸命頑張りたいのに」

上原「別に、諸伏警部はあなたの名前ちゃんのことが嫌いになったわけじゃないだろうから、話してみたらどう?本当に大事に思ってるからこそ、そういうことを言うんだと思うし」

あなたの名字「そう、だよね。向き合わないと変わらないよね.......。うん、明日話してみる。ちょうど私も高明さんも午後休みだし」

明日はハロウィン。午後から休みを取ってデートをしようなんて誘ったのだった。
そうだ、仲直りしないと、その約束もなくなってしまう。

上原「応援してる。なにかまた、困ったことがあったら遠慮なく相談してね」

あなたの名字「うん、ありがとう」












諸伏side



あなたの名前と喧嘩をしてしまった。全力を尽くして任務に向き合う姿を好きになったのに、それを否定するようなことを言ってしまった。
怒らせてしまっただろうか。それに、むきになって帰りも声をかけずに帰ってきてしまった。






メールの通知が一件来る。そばに置いていたスマートフォンを手に取ると、差出人は敢助くんのようだった。


大丈夫か?
大和 敢助
to諸伏 高明
お前、あなたの名字と喧嘩したか?どうせまた、心配だとか言って困らせたんだろ。
気持ちはわかるが、お前の言えたことじゃないだろう。説得力がないんだよ、高明が言っても。
素直に謝ったらどうだ。2人で話せば解決するだろう。2人とも冷静なときはしっかり者なんだからな。



おせっかいだなと思う。けれど気にかけてくれる友人がいるというのは大事にしないといけないなとは思う。
そのままぱっと返信のメールを書き始める。


Re:大丈夫か?
諸伏 高明
to大和 敢助
上原さんの事を何度も泣かせてきた君にだけは言われたくないですね。
ですが、今日は私も少し冷静さを欠いて色々言ってしまいました。
ご心配ありがとうございます。明日、話します。


まあそれだけ、上原さんを泣かしてきた敢助くんだからこそ、いえることでもあるのだろう。
明日、昼食に誘ってそこで話をして......

諸伏「そういえば、明日はハロウィン......ですか」

すなわちデートの約束をしていた日ということになる。

諸伏「なんて日に喧嘩してしまったのでしょう。ですが、きっとあなたの名前なら、話を聞いてくれるでしょう......」

そうして力尽きた私は眠りに落ちてしまった。


























翌朝、スマートフォンを見ると昨日のやりとりに返信が来ていた。


Re:Re:大丈夫か?
大和 敢助
to 諸伏 高明
がんばってこい。


そっけない一言だけれども、嬉しかった。友人に恵まれたなと、思い直しながら朝の身支度をはじめた。
あなたの名字side


朝、オフィスに来ても落ち着かない。高明さんに、朝に挨拶をすればよかったのかもしれないけれどそんな勇気も出ず、来てすぐそのまま席についてしまった。

12時まであと3時間。いつもならあっという間に終わる午前中が今日はすごく長く感じる。
いつもよりも休憩を多くとってしまった。席を立って休憩室にお茶を取りに行ったりお手洗いに行ったり。
そのつど高明さんを横目に見るけれど、いつもと変わった様子はなかった。


そんなこんなで気づけば12時30分を回っていた。一周回って集中しすぎていたのか、上がってもいい時間からは少し過ぎていた。

私はバッと立ち上がって荷物を整理する。高明さんのデスクを見ると、そこにはまだ、パソコンと向き合う高明さんの姿があった。

荷物をまとめて私はその席に近づく。

あなたの名字「あ、あのっ」

勇気を出して声をかける。

諸伏「なんでしょう」

少し気まずそうに、こちらを振り返りもせず高明さんはそう答える。

あなたの名字「一緒に昼ごはん、食べに行きませんか」

少し震えた声で私はそう言った。すると高明さんはパソコンの電源を落とし、立ち上がった。

諸伏「構いませんが」

短くひとこと言うと、そのまま荷物もまとめる。

諸伏「行きましょうか」

そしてすたすたと歩きだしてしまった。私はその後を追いかける。
オフィスを出るとき、由衣ちゃんがこちらに向かってファイト!というポーズをしてくれていた。
ありがとう、という気持ちで手を振り返す。


県警を出て行きつけの蕎麦屋さんに入る。時刻は13時手前。もうお店は空いてきていた。
席について気まずい時間が流れる。どちらから話を持ち出せばいいのかわからないような雰囲気で
5分と少しくらいの間、メニュー表を各自みつめる。メニューなんて覚えてしまうくらいこの店には来ているから
お互いに、メニュー表を見る必要なんてないのにも関わらず。

このままではらちが明かない、そう思って私はもう一度勇気を出して声をかける。

諸伏「あの」
あなたの名字「あの!」

同時だった。完璧にハモった。それが可笑しくて、ふふっと笑ってしまう。
高明さんも同じようにくすりと笑った。

諸伏「すみません、昨日は意地を張ってしまいました」

あなたの名字「私こそ、ごめんなさい。高明さんに沢山の迷惑と心配をかけて」

諸伏「いえ、良......くはないですけれど、責任感が強くて誇り高い警察官としての姿が好きですし、それが君の強さでしょうから」

あなたの名字「心配してくれることが、どれだけありがたいことかって考えて、私も申し訳ないことをしたなって思ったんです。これからは少し自重します。もちろん、常に一生懸命な心持は捨てませんけど」

諸伏「お願いします。私はもう、誰も失いたくないのです。両親を失って、弟も失って。大事な彼女まで失ってしまっては、もう立ち直れないですから」

あなたの名字「そう......ですよね。もう少し、自分の身体を大事にします。ですが、高明さんにも全く同じ言葉を送り返しますよ。私だって、高明さんを失いたくないです。だから、無茶して死んだりしないでくださいね」

諸伏「お約束します」

2人で向き合って笑いあう。

店員「君たち、注文はー?」

ずっと見ていたであろう店員にそう声を掛けられる。そういえば、注文するのを忘れていた。

諸伏「いつもの、信州そばで」
あなたの名字「いつもの信州そばを」

またまた同時だった。私も高明さんも声を出して笑う。

店員「はいはいいつものねー」

そういって店員さんは奥の方へ回っていった。

諸伏「これからも、何か思うことがあったら、正直に伝えあったほうがいいかもしれませんね」

あなたの名字「そう、ですね。高明さんの期待に応えられるように頑張ります!!」

諸伏「それでは私も、あなたの名前の期待に応えないといけませんね」

いつもの空気感が戻ってきた。私はやっぱりこの人が好きだ。私なんかよりよっぽど責任感もあって行動力もある、無茶だってするくせに、私のことは心配する。身勝手だと思う人もいるかもしれないけど、私はやっぱり、そんな高明さんがかっこいいと思うし、自慢の恋人だなって思う。

諸伏「今日はハロウィンですし、夜は町が活気づくでしょうね」

あなたの名字「デートの約束、ってまだ有効ですか」

諸伏「もちろんです。仮装するようなものもありませんが、一緒に街を歩きましょう」

あなたの名字「ぜひ!」

店員「はい、信州そば2人分おまちー」

諸伏「ありがとうございます」
あなたの名字「ありがとうございます」

またしてもハモる。私たちは本当に、仲も良くて相性もいいのだろう。
あははと笑いながらも、そばを口にする。今日のそばは、今までで一番おいしい味がした。

作者
喧嘩シチュのリクエストということで!
この2人が喧嘩するならこういう話題しか思いつかなくって、
昨日上げた話となんだか方向性が似てしまいましたがお許しください!!!

そしてリクエストくださったレンさん、ありがとうございます。ご期待には応えられましたでしょうか?

これからも、高頻度ではないですが、皆さんのリクエストがあれば続きを書こうと思いますので、
是非コメントください!感想なども励みになりますので、気軽にコメントしてくれると嬉しいです!

それではまたいつかお会いしましょう!

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