時計の針は、もう日付を越えている。
いよいよ今日になってしまった。
今日を境に、私は明確な犯罪者になる。
棚の上の、小さな写真立てを手に取った。
幼い私と志保が笑顔で寄り添っている。
写真を撮ってくれたのは、たしか両親。
あの頃は、
ただ守られて、妹と笑い合うだけでよかったのに。
写真を伏せ、静かに息をついた。
部屋はすっきりと片付いている。
最悪の事態を想定して、
名前や過去を辿られそうなものは
全て昼のうちに処分した。
真っ黒な夜空一面を覆う灰色の雲。
風もなく穏やかな夜だった。
嵐が来る前の夜は、
案外、こんな顔をしているのかもしれない。
さあ、最後の仕上げをしなくては。
ソファに腰を下ろして、携帯を手に取った。
画面を開いて、宛先をスクロールする。
久しぶりに目にする、
その名を見つけた瞬間、胸がぐっと苦しくなった。
同時に、視界が少しだけ滲む。
指が止まり、画面だけが淡く光る。
……私のことを、彼は覚えているだろうか。
この2年のあいだ、
彼はどんな時間を生きてきたのだろう。
あの頃の出来事は、すべて彼の計算の内だった。
事故も、優しさも、かけてくれた言葉も。
それでも、私は幸せだったし、
今思い返してもまた幸せな時間だった。
嘘でもいい。
利用されていたとしても、構わなかった。
ただ、
あなたの言葉のどこかに、
行動のどれかに、
ひとつでも本心が含まれていたら、
嬉しいと思うばかり。
…もしも、これで組織を抜けられたら。
縛られない朝を迎えられたら。
その先に、あなたがいる未来を、
思い描いてもいいですか。
お願いだから。
今度は、本当に。
メッセージを打ち、送信した。
もう、迷いはない。
携帯を伏せ、深く息をつく。
部屋は静かで、いつもと変わらない。
時計を見ると2時を過ぎていたが
胸騒ぎのせいで、ちっとも眠くない。
寝なくても大丈夫かな。
ミスなくやれるかな。
不安がよぎるけど、もう心配する必要はない。
半年かけて熟考した私の計画に抜かりはない。
この夜を、朝になるまで見届けよう。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。