そのまま演技をする時のようにストレッチを始めていると、再びレッスンスタジオの扉が開く。
視線を動かすと、そこに立っていたのは2人の男女。
元気に笑顔を振り撒いている水ノ瀬波音と眠そうにあくびを噛み殺す夕凪輝羅。
対照的な2人だが、芸能界で知らない人はいないほど有名なダンサーだ。
デビューして今年で1年になるが、そんな短期間で実力を世界中に知らしめた最強で最恐のコンビ。
私だって面と向かって話したことはなかったが、名前は何度も聞いたことがある。
そして2人の後を追うようにして入ってきたのは三枝りん。
親しみやすい笑顔とファンへの優しい対応で単独なのにも関わらず有名になったアイドル。
勉強面で見ても彼女は間違いなくこの学校トップクラスだ。
そして私、灯芽美。
幼少期からずっと培ってきた演技力でどんな役も演じきれると言われた役者。
ここには、そんな今を輝く6人が集められている。
互いが互いの腹を探り合いながら。
流星が名簿を確認しながら全体を見渡す。
緩く自己紹介をする彼とは対照的に、私達の雰囲気は険悪。
全員が笑みを浮かべているのに、全員に何か裏があるような、そんななんとも言えない感覚。
芸能科で縦、横の繋がりには個人差がある。
縦の繋がりが多いのは事務所に所属しているアイドル。
横の繋がりは人柄にもよるが、縦横両方多いのは役者。
歌手などは両方が少ない、というのが私の見解だ。
だからここに集められた人も大抵は初対面。
輝羅さんや波音さんに至っては学年までも違う。
完全に結果重視で集められた実力主義のアイドル。
それが私達だ。
そんな気まずい空気に気づいてか、気づかずか、名簿を閉じながら流星が告げる。
ま、流星の性格からして気づいてなさそうだけど。
反応に困っている私たちとは違い、波音さんがすぐに賛成の声をあげる。
誰を紹介するのかは私も気になっていたところだから助かる。
同性同士の私とりん、仲が良いと聞く瑠花と蓮、ペアを組んでいた輝羅と波音。
この場ではこれ以外に考えられないと言う組み合わせが提示される。
しかしそれだったら困ることもないから私からしたら万々歳。
誰から始めるか、全員が周りを見渡したところで波音さんが手をあげる。
他にやろうとしてる人がいないことを確認すると、輝羅さんの手を引き共に立ち上がる。
波音さんが確認するように尋ね、それに輝羅さんが頷く。
その様子を見て瑠花さんが思わずといった感じに声をあげる。
私も言葉にしなかったものの、きっとここにいる誰もが瑠花さんと同じことを思った。
高1から始めてあそこまで有名になったっていうことにも驚きだが、波音さんも中1からだったということに驚きだ。
常に人気商売の芸能界で過ごしているとわかる。
努力だけじゃ上へと登っていくことはできない。
芸能界で必要なのは努力と愛嬌、そして何よりも才能。
それらが全て揃った時に私たちは本当の意味で輝き続けることができる。
波音さんとは対照的に、淡々と簡潔に紹介をしていく輝羅さん。
しかしその紹介をすることを誇りに思っているかのように笑顔を浮かべている。
それに対して波音さんは悲しそうな、寂しそうな笑顔を浮かべる。
しかし一瞬で、先ほどのような元気な笑顔に戻る。
それでもどこか悲しげな雰囲気を纏ったまま。
でもそれは、ずっと演技を見てきた私だから感じたのかもしれない。
だから他の人が気づいているのかはわからないが。
2人が座ったのを確認するとりんが立ち上がる。
そうなるとペアである私も必然的に順番が回ってくることになる。
先ほどの2人のように私たちも立ち上がり、他者紹介を始める。
ずっと褒めてくれてると思っていたら、突然虚言癖と言われてしまう。
りんのおかげで虚言癖だと思われたとしても、みんなの印象には残ったようだ。
それならいいのか、なんて思いながら、今度は私がりんの紹介をする。
印象に残ることを第一に考えてしまう、芸能人の悪い癖なのかもしれない。
芸能界にいる人ならスケジュール管理の大変さは身に染み付いているだろう。
だからこそそれをなんてことのないようにこなす流星の凄さも伝わる。
りんの実力だって、きっとこれからよくわかる。
アイドルという職業がどれだけ大変なのか、身をもって味わうことになるのだから。
そうして私たちと入れ替わるようにして立ち上がったのは瑠花さんと蓮さん。
顔が整っている人の多い芸能科でも特にイケメンと言われている2人がどんな自己紹介をするのか、楽しみだ。
少しの話し合いの末、蓮さんが先に口を開く。
聞き覚えのある単語が聞こえてきて、思わず目を見開く。
パステルリボンは今最も勢いがあるとされている女子アイドルグループ。
そして私の後輩が所属しているグループでもある。
思いもしなかった紹介に、瑠花さんは狼狽える。
それを見た蓮さんはここにきてから初めての年相応の笑顔で笑う。
今度は瑠花さんのセリフに蓮さんがつっこむ。
このやりとりからも2人の仲の良さが伺える。
今回練習するダンスは元々りんさんの楽曲。
りんさんが踊れるのは当然として、私たちに与えられた期間はグループ発表から今日までのおよそ3日。
その短期間で私たちはダンスを覚えなければならなかった。
まぁ、つまり何が言いたいかというと…
ここで失敗しても私は悪くないということだ。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。