第3話

2話
80
2025/12/16 12:15 更新
 その日も、いつも通りだった。



 電車を降りて、家までの道を歩く。



 夕方の空気は少し冷たくて、考え事をするにはちょうどいい。



 ——体育祭、か。



 頭の片隅で、親の言葉を反芻ハンスウした、そのとき。



 プルルルルル、プルルルルル。



 スマホが震える。



 画面に表示された名前を見て、足が止まった。





(なまえ)
あなた
……久しぶりだな


 出るかどうか、一瞬迷う。



 でも、逃げ続ける理由も、もうなかった。




(なまえ)
あなた
はい、もしもし



fur
あ、あなたの下の名前?久しぶり




 四つ上の従兄。



 風楽奏斗。



 懐かしい声なのに、胸の奥が少しだけ緊張する



fur
急にごめん。元気にしてる?



(なまえ)
あなた
まあ、それなりに



 無難な答え。



 本当のことを言うほど、近くはない。



fur
今度、にじたうんで体育祭やるって聞いてさ



 やっぱり、その話題か。


fur
一緒に行かない?



 電話越しの声は、軽い。



 でも、その軽さの下に、



 何か別の目的がある気がした。



 ——関わったら、また過去が動く。



 そう思ったのに、



 不思議と嫌な感じはしなかった。


(なまえ)
あなた
……考えとく



fur
うん、それでいい



 その一言が、少しだけ救いだった。



 電話を切って、歩き出す。



 私はまだ知らなかった。



 この体育祭が、



 自分の中に残っていたものを



 ちゃんと終わらせてくれる場所になることを。

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