胸の奥にしまっていた夜が、
静かに浮かび上がる。
親戚で集まっていたこと。
お酒を飲んだこと。
布団の中の、息遣いと、妙な静けさ。
責めたい気持ちが、なかったわけじゃない。
でも今は、
怒りよりも、整理のつかない感情の方が近かった。
短くて、逃げない謝罪だった。
私は、少し考える。
言葉を選ぶというより、
自分の気持ちを確かめるみたいに。
言葉にすると、胸が少し軽くなる。
一度、息を吸う。
自分で言って、自分で驚く。
本心だった。
奏斗が、少しだけ目を見開く。
私は笑う。
無理に作った笑顔じゃなかった。
それは彼のためでも、過去のためでもなく、
私自身のためだった。
家の前に着く。
言えた。
もう、引き止めたい気持ちはなかった。
奏斗が歩き出すのを見送って、
胸の奥に、静かな余白ができたのを感じる。
体育祭は、私とは無関係だと思っていた。
でも、参加してよかった。
過去は消えない。
それでも、
今をちゃんと楽しめる日が来る。
玄関の前で、少しだけ立ち止まる。
好きだったかもしれない。
そう言えば、全部を曖昧にできた気がして、
私はずっとその言葉を避けてきた。
でも、今日一日で分かった。
あの感情は、確かにそこにあったし、
終わらせなければ前に進めないものだった。
鍵を開けて、家に入る。
静かな部屋で、深く息を吸う。
胸の奥に残っているのは、後悔でも未練でもなく、
ちゃんと区切りをつけたあとの、軽さだった。
——ボールが止まったあと。
私は、ようやく自分の時間を取り戻した。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。