週末。
誰もいない部屋で、僕はパソコンの前に座っていた。
完成した《Reunion》を再生しながら、指先で最後の調整をする。
この曲には、すれ違う廊下での短い会話、
ほんの一瞬見た彼女の表情、
そして胸に残る温もりのすべてを込めた。
「これで……」
小さく呟き、曲を音楽配信サイトに投稿する。
タイトルもそのまま《Reunion》。
キャプションには特に説明を書かず、ただ曲だけがそこにある。
その瞬間、少しだけ心が軽くなった。
どんなに彼女が覚えていなくても、
この音が彼女の心に届くことを、僕はどこかで願っていた。
数日後、会社の廊下。
双葉さんがイヤホンを片耳につけ、スマホを操作しているのが目に入った。
その姿に僕は不思議と足を止める。
彼女はイヤホンを外し、ぼんやりとつぶやいた。
「……なんでだろう、胸がぎゅっとなる」
その言葉に、僕の心は少し揺れた。
理由はわからない。
昨日も今日も、彼女は僕のことを知らない。
でも、曲の中の何かが、彼女の心に触れたのだろう。
廊下の角で、一瞬だけ目が合った気がした。
けれど、それもきっと気のせいだ。
僕たちは、何も共有していないはずなのだから。
夜、家に帰ると、僕はもう一度《Reunion》を聴く。
画面の中の波形を見つめながら、静かに思った。
――忘れられてもいい。
忘れられても、またここに残るものがある。
曲の中の僕と彼女が、ひっそりと繋がっていればそれでいい。
それが、僕にとって初めて感じる、切ない希望だった。
でも、心の奥ではわかっていた。
この小さな奇跡は、いつか必ず終わることを――。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。