第3話

第三章 音楽という記憶
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2025/11/13 10:10 更新
週末。

誰もいない部屋で、僕はパソコンの前に座っていた。

完成した《Reunion》を再生しながら、指先で最後の調整をする。

この曲には、すれ違う廊下での短い会話、

ほんの一瞬見た彼女の表情、

そして胸に残る温もりのすべてを込めた。

「これで……」

小さく呟き、曲を音楽配信サイトに投稿する。

タイトルもそのまま《Reunion》。

キャプションには特に説明を書かず、ただ曲だけがそこにある。

その瞬間、少しだけ心が軽くなった。

どんなに彼女が覚えていなくても、

この音が彼女の心に届くことを、僕はどこかで願っていた。
数日後、会社の廊下。

双葉さんがイヤホンを片耳につけ、スマホを操作しているのが目に入った。

その姿に僕は不思議と足を止める。

彼女はイヤホンを外し、ぼんやりとつぶやいた。

「……なんでだろう、胸がぎゅっとなる」

その言葉に、僕の心は少し揺れた。

理由はわからない。

昨日も今日も、彼女は僕のことを知らない。

でも、曲の中の何かが、彼女の心に触れたのだろう。

廊下の角で、一瞬だけ目が合った気がした。

けれど、それもきっと気のせいだ。

僕たちは、何も共有していないはずなのだから。

夜、家に帰ると、僕はもう一度《Reunion》を聴く。

画面の中の波形を見つめながら、静かに思った。

――忘れられてもいい。

忘れられても、またここに残るものがある。

曲の中の僕と彼女が、ひっそりと繋がっていればそれでいい。

それが、僕にとって初めて感じる、切ない希望だった。

でも、心の奥ではわかっていた。

この小さな奇跡は、いつか必ず終わることを――。

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