第72話

催涙弾
4
2026/08/05 04:01 更新
OGAWA
OGAWA
夕暮れのスクランブル交差点
誰もが誰かを避けて歩く
「君のため」と放たれた言葉が
白い煙を上げて 喉の奥を焼いた

正論のセーフティピンが抜かれて
逃げ場のない部屋に響く破裂音
ねえ どうして正しいことって
こんなに痛くて 涙が止まらないの

胸のなかで爆発した 恋の催涙弾
視界を奪って 記憶をぐしゃぐしゃにする
綺麗事の煙が 部屋を満たしていくから
せめて明日を睨みつけるために
僕は目をこすりながら 強く息を吸い込んだ

テレビの向こうのニュース
遠い国の街が煙に巻かれている
僕の小さなワンルームも同じ
見えない盾を持った君に 敵うはずがない

傷つけるつもりはなかった
なんて言い訳の引き金を引いたのは誰?
冷たい風が窓を叩いても
熱い痛みが まだ消えてくれないの

心めがけて投げ込まれた 最後の催涙弾
涙の向こうで 君の背中がにじんでいく
正しさに負けたわけじゃない
ただ 突きつけられた優しさが
あまりに眩しくて 痛かっただけなんだ

換気扇が回る音だけが響く
泣ききった目に見える 歪んだ天井
悲しいから泣いてるんじゃない
これはただの 生理現象だと言い聞かせて

胸のなかで爆発した 恋の催涙弾
視界が晴れたら 違う景色を探しにいこう
煙が消え去った ガラ空きの心のなか
泣き顔のままで笑ってみせる
僕は涙を拭わずに ドアを開けて歩き出す

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