第6話

5話
31
2026/04/12 07:54 更新
第5話 会えない距離



次の日。

あなたの下の名前は、学校を休んだ。
目が覚めても、起き上がる気になれなかった。
スマホはずっと裏返したまま。

見るのが怖い。



でも、見なくてもわかる。

まだ終わっていない。

あの写真も、噂も、全部。




(行きたくない)

学校も。

駅前も。

全部。

布団の中で、あなたの下の名前は目を閉じる。



すると――
思い出してしまう。
雨の日。
初めて会った時。
あなた
歌、上手いですね
あの時の、少し驚いた顔。

それから何度も会って、
笑って、
話して。


(なんで)

胸が痛くなる。
あなた
……っ


涙がこぼれる。

会いたい。
でも、会えない。
会ったら、また全部壊れる気がする。


その時。

ピコン、と小さな音。

スマホの通知。

私はしばらく動けなかった。



でも。

震える手で、ゆっくりと画面を見る。

表示された名前。

元貴

息が止まる。

メッセージは一つだけ。



『少しだけでいい。会えない?』

その一文が、

やけに短くて、
やけに重い。


あなたの下の名前は、何度もその文字を見る。



返信しようとして、

やめて。

打っては消して、

また消して。



(会ったらダメ)

そう思うのに。



『……どこ』



気づけば、送っていた。




夕方。

人の少ない公園。

ベンチに座っていると、

足音が聞こえる。

顔を上げる。

そこにいたのは――

元貴だった。

いつもより少しだけ疲れた顔。

でも、

あなたの下の名前を見た瞬間、少しだけ安心したように笑う。

omr
……来てくれてありがとう
私は何も言えない。

ただ、距離を少しだけ取ったまま立っている。



その距離が、昨日よりも遠い。

元貴は一歩近づく。


私は反射的に、一歩下がる。

その動きに、

元貴の表情が一瞬だけ傷つく。
omr
……そんなに避ける?
小さな声。

私は視線を逸らす。
あなた
だって
声が震える。
あなた
また撮られたらどうするの
元貴は何も言えない。

あなたの下の名前は続ける。
あなた
もう嫌なの
omr
……
あなた
学校も、SNSも、全部
言葉が詰まる。
あなた
怖い
それが、本音だった。

元貴は少しだけ俯く。
omr
ごめん
また、その言葉。

私は首を振る。
あなた
謝らないで
omr
……
あなた
謝られると、余計に苦しくなる
静かな空気。

風の音だけが流れる。

しばらくして、元貴が口を開く。
omr
俺さ
あなたの下の名前を見る。

真っ直ぐな目。
omr
あなたの下の名前といる時間、好きだった
心臓が強く鳴る。
omr
普通に話して
omr
普通に笑って
omr
それだけでよかった
私は何も言えない。
omr
でも
元貴は少し笑う。
omr
それ、俺には“普通”じゃなかった
その言葉が、重く落ちる。
omr
あなたの下の名前といる時だけ、ちゃんと自分でいられた
胸が締め付けられる。
omr
だから
一歩、近づく。

今度は、私は下がれなかった。
omr
離れたくない
その一言。

あなたの下の名前の目に涙が溜まる。
あなた
……ずるい
あなた
そんなこと言われたら
声が震える。
あなた
離れられなくなるじゃん
元貴は少しだけ驚いた顔をする。

あなたの下の名前は泣きながら笑う。
あなた
でも無理だよ
omr
……
あなた
私、強くないもん
現実は変わらない。

元貴は芸能人で、

自分は一般人。

その差は、どうしても埋まらない。

私は一歩下がる。
あなた
ごめん
その言葉に、

元貴は何も返せなかった。

私は背を向ける
あなた
……もう、会わない
小さく言って、

そのまま歩き出す。

今度は、

振り返らなかった。
その夜。

元貴のスマホに、一つの通知。

音楽アプリ。

新しいデモのタイトル。




『君にだけ届く歌』

再生ボタンを押す。

流れてきたのは、

まだ未完成のメロディ。

でも、

その中に確かにあった。

あなたの下の名前の言葉。
あなたの下の名前の声。
あなたの下の名前との時間。



元貴は目を閉じる。
omr
……届くかな
誰もいない部屋で、

小さく呟いた。

この歌が、



もう一度あの人に届く日を、
願いながら。
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