第4話 壊れていく日常
翌日。
朝から、教室の空気がおかしかった。
ざわざわと、落ち着かない声。
スマホを見て、誰かが小さく叫ぶ。
私は席に座りながら、違和感を覚えていた。
(なんか、嫌な予感する)
その時。
友達がスマホを持ってくる。
画面に映っていたのは――
一枚の写真。
駅前。
雨の日。
ギターを持つ元貴と、
その前に立つ自分。
息が止まる。
見出しには、大きく書かれていた。
『人気バンドボーカル、一般女性との親密写真』
その下に名前。
大森元貴
手が震える。
昨日、見た“マネージャー”の文字。
噂。
全部、繋がる。
友達の声が遠い。
似てるどころじゃない。
これ――
自分だ。
周りの視線が、一斉に集まる。
ひそひそとした声が刺さる。
私は何も言えない。
(どうしよう)
スマホがまた震える。
SNS。
通知が止まらない。
『あの女誰』
『一般人無理なんだけど』
『匂わせ?』
『ファン舐めてるでしょ』
画面を閉じる。
見ていられない。
胸が苦しくなる。
その瞬間。
教室のドアが開く。
先生の声。
一瞬だけ空気が落ち着く。
でも。
視線は消えない。
私は、ただ前を向くしかなかった。
放課後。
私は逃げるように教室を出た。
向かう先は、決まっている。
駅前。
あの場所。
そこに――
元貴がいた。
いつも通り。
まるで何もなかったみたいに。
その声を聞いた瞬間。
胸の奥に溜まっていたものが、一気に溢れる。
私は走って近づいた。
声が震える。
元貴は少しだけ驚いた顔をする。
私はスマホを見せる。
あの写真。
記事。
全部。
元貴の表情が、固まる。
小さな声。
私は首を振る。
うまく言葉が出てこない。
元貴は何も言えない。
沈黙。
それが、答えみたいだった。
私の目に涙が溜まる。
元貴が顔を歪める。
はっきり言ってしまった。
空気が止まる。
元貴は何かを言おうとする。
でも。
私は一歩下がる。
スマホを握る手が震える。
SNS。
学校。
全部壊れていく。
元貴が名前を呼ぶ。
その声が、痛い。
言いかけて、止まる。
きっと言葉を選んでいる。
でも。
その時間すら、苦しい。
私は目を逸らす。
その一言で、
何かが決定的に壊れた。
元貴の表情が変わる。
私は答えられない。
本当は。
離れたくない。
でも。
それが全部だった。
元貴は何も言わない。
ただ、立ち尽くしている。
私は背を向ける。
小さく言って、
その場を離れた。
夜。
スマホの画面が光る。
SNSのトレンド。
『大森元貴 彼女』
『駅前の女』
『一般人特定』
私は画面を閉じる。
涙が止まらない。
(なんでこんなことに)
ただ、話していただけなのに。
ただ、歌を聴いていただけなのに。
静かな部屋の中で。
私は一人、泣いていた。
一方で。
元貴もまた、
同じ夜を過ごしていることを。
私は、まだ知らない。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!