私は 、毎朝決まった音で目を覚ます 。
脳に埋め込まれた感情チップが 、
今日も正常に動いている証 。
天井を見上げながら 、小さく呟く 。
この世界では 、それが一番の安心だった 。
恋をしていない 。
強く誰かを想っていない 。
心が乱れていない 。
それが「正しい生き方」だ 。
私は 、制服に着替えながら 、洗面台の鏡を見る 。
そう言って 、自分に言い聞かせた 。
学校に向かう電車の中も静かだ 。
恋愛は禁止。
感情の高ぶりは警告 。
みんなそれを知っているから 、
誰も大きく笑わないし 、誰も誰かを見つめすぎない 。
教室に入ると 、いつもの風景 。
友達の陽葵が声を掛けてくる 。
赤ランプがついた人は 、連行される 。
「感情の再調整」と呼ばれる処置を受けて 、
恋した記憶も 、大切な想いも 、全部消される 。
先生が教室に入ってきた 。
その瞬間 、
なぜか 、あなたの下の名前の胸が少しだけざわっとした 。
男の子だった 。
紫色の長い髪で水色のメッシュ 、少し眠そうな目 。
どこか不思議で 、それでいて優しそうな顔 。
短い自己紹介 。
でもなぜか 、結衣の耳に残った 。
席は 、あなたの下の名前の隣の席 。
椅子が引かれる音 。
近づく気配 。
その瞬間 ーー
小さな電子音が 、あなたの下の名前の頭の奥で鳴った 。
誰にも聞こえないほど小さな音 。
でもあなたの下の名前にはわかった 。
感情チップの警告音だった 。
ただ隣に座っただけなのに 。
知らない男の子が 、少し近くにいるだけなのに 。
彼が小さくこちらを見る 。
慌てて前を向く 。
胸が 、少しだけ速く打っていた 。
授業が始まっても 、集中できなかった 。
彼のペンで字を書く音 。
机に肘をつく仕草 。
それだけで 、心臓がうるさくなった 。
昼休み 。
それが一番安全な答えだった 。
陽葵と別れると 、
その時 、彼が近づいてきた 。
名前を呼ばれて 、胸が跳ねる 。
心臓が止まりそうになる 。
また 、頭の奥で警告音が鳴る 。
彼は小さく笑った 。
それはこの世界で 、いちばん言ってはいけないこと 。
彼はあなたの下の名前を真っ直ぐ見た 。
結衣は答えられなかった 。
チップの警告音が 、
頭の奥で 、静かに鳴り続けていた 。
恋は罪 。
そう教えられてきた 。
でもこの瞬間 、
あなたの下の名前の心は 、もう彼の方を向いてしまっていた 。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!