昼休み。
教室はいつもより、少しだけ騒がしい。
みんなそれぞれ、友達とお弁当を広げている。
私はというと——
自分の席で、一人で食べるつもりだった。
(今日は……どうしよう)
ちらっと隣を見る。
言くんは、机に軽く肘をついて、静かにパンを食べていた。
相変わらず、誰とも話していない。
(……昨日、少し話したし)
ほんの少しだけ、迷う。
話しかけてもいいのかな、って。
でも——
(やっぱり、急に話しかけるのも……)
そう思って、視線を戻そうとしたとき。
言「……食わないの」
私「え?」
気づくと、東くんがこちらを見ていた。
言「弁当」
私「あ、ううん、食べるよ」
慌てて蓋を開ける。
言「……そ」
それだけ言って、また視線を落とす。
——でも。
さっきの一言。
(話しかけてくれた……)
それだけで、少し嬉しくなる。
⸻
少しだけ勇気を出してみる。
私「あの……東くんって」
言いかけて、止まる。
(……あ)
“東くん”って呼んでいいのか、一瞬迷った。
でも、もう言っちゃったし。
東くんは、ちらっとこちらを見る。
言「……何」
私「その……パン、それだけで足りるの?」
変な質問になってしまった。
(もっと他にあったでしょ……)
そう思ったけど、
言「……別に」
いつも通りの短い返事。
でも、そのあと。
言「お前こそ、それだけなの」
私「え?」
お弁当を見られる。
私「うん、まあ……」
言「……少な」
ぼそっと言われた。
私「えっ」
思わず顔を上げると、
ほんの少しだけ、口元が緩んでいる気がした。
(今、ちょっと笑った……?)
気のせいかもしれない。
でも——
なんだか、少しだけ距離が近くなった気がした。
⸻
授業が終わって、帰りの時間。
今日もまた、隣の席は静かだった。
でも昨日と違うのは、
その静けさが、少しだけ心地よく感じること。
荷物をまとめていると、
ふと、思う。
(名前……)
“東くん”じゃなくて。
(東、言くん……)
下の名前で呼ぶのは、まだ少し勇気がいる。
でも——
(いつか、呼べるようになりたいな)
そんなことを思った自分に、少し驚く。
隣の席の距離は、変わらないはずなのに。
少しずつ、確実に。
何かが変わり始めていた。
NEXT➡️











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。