黄くんがふわっと笑った。
いつも通りの優しい声。
でも、その奥にある " 観察する目 " を、
僕はうっすら感じていた。
あれから、僕は何も言わずいつも通りの練習、
いつも通りの振る舞いを続けていた。
病院で言われた " 進行する記憶障害 " という言葉は、
心の奥に封じ込めたまま。
もし、これが夢だったらいいのに。
そんな願いを抱くようになった自分が、
少しだけ怖かった。
赤くんの元気な声がスタジオに響く。
僕と黄くんの間に入り込むように、
タオルを肩にかけながら笑った。
赤くんはくしゃっと笑ったけど、その目の奥にも
やっぱりほんの少しだけ
" 気づきかけ " の気配が見えていた。
でも、今はまだ。
今だけは、何も崩したくなかった。
夜。
マンションに帰る途中のエレベーターの中。
隣に立つ桃くんは、じっとスマホを見ていたけど、
ふと、ぽつりと口を開いた。
一瞬、心臓が止まりそうになった。
笑いながら言うその声が、どこまでも優しかった。
それが、今の僕には一番刺さった。
それだけ。
桃くんはそれ以上、何も言わなかった。
でも、背中越しの " 心配 " が、確かに伝わってきた。
部屋に戻ると、急に身体が重くなった。
ベッドに倒れ込んで、スマホを開く。
「 20xx年xx月xx日 」
・黄くん、赤くん、微妙に気づきかけてる?
・桃くんは、多分もう気づいてる。
でも言わないでいてくれる。
・この日常を壊したくない。
けど、僕の中で何かが壊れていってる。
目を閉じると、今日のレッスンで間違えた振りの一瞬が、何度も頭に浮かんだ。
違う。
間違えたくて間違えたんじゃない。
ただ、頭のどこかがもうついていけてなかった。
翌朝、鏡に映る自分の顔を見て思った。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。