血と魔力の匂いが、空気にべったり張りついてる。
トラウトは膝をついていた。
「……っ、は……」
呼吸がうまくできない。
魔法はもう、まともに形にならない。
敵はまだ立っている。
数も、力も、完全に負けてる。
「……やば……」
笑おうとして、失敗した。
(あー、これ、死ぬやつだ)
その瞬間。
空が、割れた。
雷でも、爆発でもない。
“裂けた”という表現が一番近い。
ごう、と重低音が響いて、
空気そのものが押し潰される。
敵も、トラウトも、思わず見上げる。
――影。
いや、鱗に覆われた巨体。
光を反射する金属みたいな鱗、
大きく広がる翼、
長くしなる尾。
そして、燃えるような瞳。
「……は?」
トラウトの口から、間の抜けた声が出る。
次の瞬間。
炎。
理性を焼き切るみたいな、白に近い光の炎が、
敵を一瞬で飲み込んだ。
悲鳴すら、上がらない。
静寂。
重たい着地音と一緒に、
その存在が地面に降り立つ。
トラウトのすぐ前。
「……遅くなってごめん!!トラ!!」
「ベリーの体力全回復!!時間稼ぎありがと!!」
声は、知ってる。
「……ベ、リー……?」
巨体が、光に包まれていく。
鱗が砕けるように消えて、
翼がほどけて、
最後に残ったのは――
いつものベリー。
でも。
その背中には、光の痕跡が残ってる。
トラウトは、震える声で言う。
「……なに、あれ」
「ドラゴン……?」
ベリーは笑う。
「うん」
「正確には、“ドラゴンに近い何か”かな〜」
「……聞いてないんだけど…」
「言ってなかったからねー」
悪びれない。
ベリーはトラウトの前にしゃがんで、
傷だらけの体を見て、眉を下げる。
「無茶しすぎ!」
ベリーはトラウトの額に、軽く指を当てる。
「トラが死ぬなんて嫌だからね!」
その言葉に、トラウトは何も言えなくなる。
ベリーは立ち上がって、空を見る。
振り返って、少しだけ、怖い笑顔。
トラウトは、震えながら笑った。
「……いや、あれは
最終手段にして……」
「約束はしないよ〜?」
くすっと笑うベリーの背後で、
一瞬だけ、竜の影が揺れた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!