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第1話

恋人ごっこ、終了のお知らせ。』~d×n~
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2025/10/27 09:00 更新
『恋人ごっこ、終了のお知らせ。』~d×n~

Side翔太

「翔太、彼女できた?」

昼休みの給湯室で、同僚の山田にいきなりそんなことを聞かれた。
コーヒーメーカーの前で紙コップを持ったまま固まる。

「え、なんで急に?」
「いやー、最近なんだか楽しそうだなって思ってさ。もしかして春が来たのかなーって」
「春って、俺はまだ冬だよ」

山田がニヤニヤしながら俺の肩を叩く。
この人、営業部で一番の噂好きなんだよね。
ここで変なこと言ったら、明日には部署中に広まっちゃう。

「で、どうなの?いるの?」
「え、あー……」

なんでだろう。とっさに口が勝手に動いた。

「いるよ」

言っちゃった。
山田の目がキラーンと光る。
だめだ、これは完全にだめなやつだ。

「マジで!?誰誰!?社内?社外?」
「しゃ、社外~社内~う~んと!、幼馴染で~……」
「へー!いいじゃん!今度飲み会に連れてきてよ!」
「む、無理だよ!恥ずかしがり屋さんだから!」

必死で誤魔化して、俺はコーヒーを持って逃げるように給湯室を出た。
廊下で深呼吸する。
なんてことしちゃったんだろう。
彼女なんていないのに。

恋人なんて影も形もない。

デスクに戻ると、隣の席の女性社員が話しかけてきた。

「渡辺くん、彼女いるんだって?」
「え、もう聞いたんですか!?」
「山田さんが嬉しそうに言ってたよ。おめでとう!」
「あ、ありがとうございます……」

やばい。もう広まってる。
山田の情報伝達速度、光より速いんじゃないかな。

その日の午後、案の定、部署のあちこちから視線を感じた。

「渡辺くん、彼女いるんだって?」
「おめでとう!いつから?」
「写真見せてよ!」
「どんな人?」

質問攻めだ。
もう逃げ場がない。
笑顔で誤魔化すしかなかった。

「あはは、まあ、その、ぼちぼちだよ……」
「ぼちぼちってどれくらい?」
「ええっと、数ヶ月……?」
「へー!じゃあもう安定してるんだ!」
「あ、はい……」

嘘に嘘を重ねてしまう。
もうどうしたらいいんだろう。

定時になって速攻で会社を飛び出した。
駅までの道を早歩きで進む。
どうしよう。このままだと絶対ボロが出る。

写真見せろとか、会わせろとか、そういう話になったらもう終わりだ。

「はぁ……なんであんな嘘ついちゃったんだろう……」

ため息をつきながら歩いていると、前から見覚えのある背の高い人影が歩いてきた。
黒いコートを着て、ゆっくりとした足取り。
あの落ち着いた雰囲気は間違いない。

「涼太!」

思わず声をかけると、宮舘――俺の幼馴染で同じ会社の別部署で働いてるやつがゆっくりと振り返った。

「翔太。おつかれ」
「おつかれさま!ちょうどよかった!ちょっと相談があるんだけど!」

涼太は少し眉をひそめて俺を見た。

「相談?珍しいね。どうしたの?」
「あのね、実は……」

俺は今日あった出来事を早口でまくし立てた。
山田に彼女がいるって嘘をついてしまったこと、部署中に広まってしまったこと、もうどうしようもないこと。

涼太は黙って聞いていたけど、俺が話し終わると深いため息をついた。

「……で、俺に何をしろと?」
「恋人役やってくれない?」

涼太の目が少しだけ見開かれた。

「は?」
「だってさ!俺、幼馴染がいるって言っちゃったし!涼太しかいないんだよ!」
「なんで俺が翔太の嘘に付き合わなきゃいけないの?」
「お願い!このままだと俺、部署で嘘つきになっちゃう!」

必死で頭を下げる俺を見て、涼太はまたため息をついた。

「……なんでそんな見栄はるかな」
「うるさいな!勢いだったんだよ!」
「翔太らしいね」
「褒めてないでしょ、それ!」

涼太がくすりと笑う。その笑顔に少しだけ救われた気がした。

「まあ、いいよ。俺でいいなら」

顔を上げると、涼太が少し呆れたような、でもどこか優しい表情で俺を見ていた。

「ほ、ほんとに!?」
「ただし、条件がある」
「なんでも言って!」
「俺の部屋の掃除、一ヶ月手伝うこと」
「……安いな」
「翔太の嘘に付き合うんだから、それくらいは当然でしょ」
「いや、涼太の部屋いつも綺麗じゃん。掃除する場所あるの?」
「細かいところが気になるの」
「几帳面だね……」

涼太がまた笑う。その笑顔を見てるとなんだか胸が温かくなった。

「ありがとう、涼太!助かるよ!」
「で、いつから?」
「明日から!」
「早いな」
「だってもう部署中に広まってるんだよ!明日には絶対また質問攻めだ!」
「分かった。じゃあ明日の朝、駅で待ち合わせね」
「うん!頼むよ!」

こうして、俺と涼太の"恋人ごっこ"が始まった。

家に帰ってベッドに倒れ込む。天井を見つめながら今日のことを思い返す。

「恋人ごっこか……」

涼太と恋人のふり。
考えたこともなかった。
涼太は幼馴染で、ずっと一緒にいた。小さい頃からいつも隣にいた。
でも、恋人として見たことなんて一度もない。

「大丈夫かな……」

不安になりながら、俺は目を閉じた。

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