1度だけ、兄さんと桜を見に行ったことがあった。
小さかった俺達には少し高かった丘のてっぺんに
1本だけ巨大な桜の木があった。
とても綺麗で、毎年2人で見に行ったものだ。
俺はその周りに舞う桜の花びらを
追いかけるのが好きで...
何度こけるなよと言われたっけ...
ドテッ
毎回転けてたけど...
でも平気だった。
俺が転けたら兄さんが駆け寄ってきてくれて
膝に優しく手を当てて
2人で魔法の呪文を唱えるように言う。
...ほんとに変わらないな
...もし願いが叶うとしたら。
もし今からでも遅くないのなら。
生まれ変わったら。
生まれ変わったらロウとまた。
ロウとまた兄弟として桜の下で笑い合いたい。
...生まれ変わったらさくらの下でまた会いましょう
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!