第97話

答え
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2026/08/27 12:00 更新
授業中。

黒板に書かれる数式を眺めながら、昨日の深澤の言葉を思い出していた。


『先生に呼ばれたら一番最初に探す。』

『戻ってきたら安心する。』

『いなくなると落ち着かない。』


何度も頭の中で繰り返される。

「……。」

気づけば、ペンが止まっていた。



「渡辺。」

先生の声がした。

「続き。」

「あ……。」


慌てて黒板を見る。

「すみません。」

教室に小さな笑い声が広がる。

でも、今はそれよりも。

頭の中に残った言葉の方が気になっていた。







昼休み。

あなたの名字は友達に呼ばれて、隣のクラスへ行っていた。

教室には俺と深澤と佐久間だけ。

深澤はいつも通り牛乳を飲んでいる。

佐久間は数学の問題集を開いていた。


「翔太。」

佐久間が顔を上げる。

「ん?」

「この問題、解けた?」

問題集を見せられる。

「ああ。」

途中式を説明する。

「ここを先に出して……」

「なるほど。」

佐久間が納得したように笑う。

いつも通りの笑顔。





その時。

教室のドアが開いた。

「ただいまー!」

聞き慣れた声。

反射的に顔を上げる。

あなたの名字が戻ってきた。


「遅かったな。」

深澤が笑う。

「廊下が混んでたんだよー。」

そう言いながら笑う。

その顔を見た瞬間。

胸の奥が少しだけ軽くなった。



「……。」

まただ。

深澤と目が合う。

何か言われると思った。

でも。

深澤は何も言わず、小さく笑っただけだった。








放課後。   

校門を出て少し経ったとき、あなたの名字がコンビニに寄ると言った。

「先行く?」

佐久間が聞く。

「いや。」

気づけば答えていた。

「待つ。」

言ってから、自分でも少し驚いた。

深澤がこっちを見た。




三人で店の前で待つ。

ガラス越しに、あなたの名字が商品棚の前で悩んでいる。

どちらを選ぶか決めきれず、何度も手を伸ばしては戻している。

……いつものことだった。


「長いな。」

佐久間が笑う。

「悩んでる。」

自然に口から出た。

「詳しいじゃん。」

深澤が笑う。

「……。」

返せなかった。

なんで知っているんだろう。

いつも。

こういう小さなことまで。




少しして、あなたの名字が袋を持って走ってくる。

「ごめん!」

「決められなくて!」


「知ってた。」


思わず言った。

「え?」

「いつも長いから。」

「ひどい!」

笑いながら肩を軽く叩かれる。

その何気ないやり取りが。

なぜか、すごく嬉しかった。









夜。

部屋の電気を消す。

ベッドに横になって、目を閉じる。

浮かぶのは、あなたの名字のこと。


いつからだったんだろう、と考えてみる。

文化祭。

違う。

夏休み。

違う。

もっと前。

嘘告白の日。

きっと、あの日から。



ただ、気づかなかっただけ。

友達だから。

大切な友達だから。

そう思っていた。


でも友達なら、こんなに気にならない。

いなくなっただけで気になることも。

帰ってきただけで安心することも。

笑っただけで嬉しくなることも。

きっと、ない。




静かな部屋。

ゆっくり目を開ける。

「……。」       

答えはもう分かっていた。





「……好き、なのか。」





口にすると、不思議なくらい納得した。

否定する気持ちはなかった。

でも。

すぐに伝えたいとは思わなかった。


今の関係を壊したくない。

それだけじゃない。

ちゃんと向き合いたかった。

自分のやるべきことを終えて。

胸を張って伝えられる時に。

その時に言いたい。




スマホを見る。

四人のグループチャット。

あなたの名字が送った、

『今日もお疲れ様!』

というメッセージ。

それを見て、少しだけ笑う。


今はまだ。

この気持ちは、自分の中だけでいい。

でもいつか。

自分の言葉で伝えたい。

そう思った。

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