始まりは、ごくありふれた放課後だった。
教室に残っているのは数人だけで、
窓の外にはオレンジ色の夕焼けが伸びている。
ノートをまとめていたあなたの耳に、不意に声が落ちた。
「昨日まで見えてなかった」
その一言に、手が止まった。
顔を上げると、クラスメイトの一人アメリカ。
普段はお調子者で、冗談しか口にするタイプのその人物が、まっすぐこちらを見ていた。
「何言ってるの?」
と笑ってみせるが、相手の視線は揺れない。
冗談ではないのだと、すぐに分かってしまう。
確かに自分は、この教室に通い、授業を受け、昼休みには他のクラスメイトと会話もしてきた。
誰もが普通に接してくれているし、昨日までだって同じ日常が続いていたはずだ。
けれど、目の前の彼だけは「違う」と言う。
何かの勘違いだと切り捨てたい。
だが、その瞬間、胸の奥に小さなざらつきが広がった。
いつから自分はここにいるのか。
入学式の記憶は?
初めて彼と話した時のことは?
思い出そうとすると霧のようにぼやけてしまい、形を取らない。
笑ってごまかそうとした言葉は、喉の奥で絡まって出てこなかった。
沈黙の中、窓から差し込む夕陽がゆらりと歪んだように見えた。
目の錯覚だろうか。
けれど、オレンジ色の光が一瞬だけ赤黒く変わり、視界の端で時計の針が止まった気がした。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。